台所
<世の中では『食べ物がない』ちゅうて 大騒ぎしています。 そやけど うちは お金の代わりに 食べ物を置いていってくれる お客さんらの おかげで 全然 不自由してませんでした>
ハル「あんた それ 豚やんか?!」
糸子「せや。」
ハル「そんなもん どこで買うてきたん? なあ 闇だけは やりなや。 人に知れたら えらいこっちゃで。」
糸子「うちは 闇は せえへん。」
居間
一同「うわ~!」
勝「カツレツや!」
糸子「大将のやで。 今日は 大将が おなかいっぱい 食べてから あんたらの番やさかいな。」
勝「かめへん。 食え食え。 お前らも 今まで ご苦労さんやったなあ。」
台所
糸子「ちょっと お父ちゃん 遅いなあ。」
千代「うん。『必ず 行く』ちゅう ちゃったんやけどなあ。」
糸子「何してんやろ?」
千代「多分なあ どんな顔して 来たらええか 困ってんやで。」
糸子「困ってる?」
千代「案外 こういう時 何 言うたらええか 分からへんように なるさかいな お父ちゃん。」
玄関前
勝「何してんや?」
糸子「う~ん お父ちゃん なかなか来えへんよって。」
勝「うん…。」
糸子「あ 来た! もう 遅いやんか お父ちゃん。」
勝「お父さん…。」
善作「うん。」
勝「すんません。 赤紙… 来てしまいました。 すんません…! すんません… すんません…。」
(泣き声)
勝「お父さん すんません…。」
(泣き声)
勝「すんません…。 すんません…。 お父さん すんません。」
居間
<そのあと お父ちゃんと勝さんは 2人きりで 一晩中 お酒を飲んでました>
玄関前
勝「ほな 行ってきます。」
糸子「行ってらっしゃい。」
「行っちょいで。」
「大将 行ってらっしゃい。」
優子「行ってらっしゃい。」
直子「行ってらっしゃい。」
優子「行ってらっしゃい!」
直子「行ってらっしゃい~!」
木之元「頑張りや!」
優子「頑張ってきてよ~! 行っちょいで~!」
<次の朝 二日酔いの むくんだ顔で 勝さんは 出征していきました>