連続テレビ小説「ちむどんどん」108話「豚とニガナは海を越えて」

暢子「お~ おいしそう。」

田良島「いい香りですな。 頂きま~す。」

賢秀「うまい! デージマーサンヤー! …で 暢子の店は?」

和彦「オーナー 以前 イタリアには イタリア料理はないと 聞いたことがあります。 イタリア料理は イタリア各地の郷土料理の集合体だって。」

寛大「郷土料理のい集合体?」

房子「イタリア全20州 それぞれが その土地の風土や 歴史が作り上げた食文化を 大切に守っています。 その土地の その食べ物に込められた 人の思いを大事にして 初めて 魅力的な料理になると 私は思っている。 日本も同じです。 イタリアと日本の食文化には 共通点が多い。」

暢子「例えば?」

房子「イタリア南部では 豚を捨てるところなく大事に食べる。 それは 沖縄とも似ているでしょ。」

暢子「うん…。」

和彦「ウチナーンチュは 昔から 豚肉の食べ方に知恵を凝らして 鳴き声と ひづめのほかは 全部おいしく 食べてきたっていわれてますよね。」

二ツ橋「命を大切に頂く。 すばらしい精神ですね。」

寛大「沖縄と豚を語る上で 忘れてはならない話が 実は ハワイにもあるんです。」

暢子「ハワイ?」

智「アロハ~の?」

寛大「ハワイの養豚業は ある時期 沖縄移民が支えていたとも言えます。」

暢子「えっ そうなんですか?」

寛大「私の両親は 貧しい農家で 戦前に 出稼ぎでハワイに渡り 沖縄移民の人がやっている養豚場で 働いていたんです。」

智「証券会社の社長さんですよね?」

寛大「『海から豚がやってきた』という話を ご存じかな?」

和彦「知らないよね。」

暢子「うちも。」

寛大「沖縄の養豚は 沖縄戦で全滅の危機に陥った。 戦前には 10万頭もいた豚が 数えられるほどにまで減ってしまった。 それを知った ハワイの沖縄移民たちが アメリカのネブラスカ州で 大量の豚を買い入れた。」

寛大「何人かの有志が 豚と共に船に乗り込み オレゴン州のポートランドから出港。 嵐の恐怖にも負けず 長い長い航海を経て 沖縄に 550頭もの豚を送り届けた。」

暢子「すごい…。」

寛大「彼らの願いは ただ一つ。 食糧難に苦しむ ふるさと 沖縄を助けたかった。 そんな命懸けの航海があったからこそ 今でも 沖縄には おいしい豚肉料理が 根づいているんだろうと。 いや ハハハ…。」

田良島「いい話 聞けたな。」

和彦「はい。」

暢子「何か つかめそう…、 さっきのオーナーの話 今の 海から来た豚の話 何か…。」

(テーブルをたたく音)

賢秀「親父さん! なんて いい話なんですか!」

智「親父さん?」

賢秀「これを聞いて 泣かないやつは 人でなしヤシガ! 今の話は 養豚やってる人間からしたら…。」

暢子「養豚?」

智 二ツ橋「養豚?」

田良島 和彦「養豚?」

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