沖縄料理店・あまゆ
暢子「あのさ それでね!『お客様は 一切関係ない。 明日からも いつもどおり働いください』。 …って デージ格好よかったわけ! さすがオーナー。」
和彦「それは すばらしい。 だけど…。」
暢子「何?」
和彦「オーナーは 三郎さんとは 昔の知り合いなんだよね? 三郎さんは 信用できるはずなのに 何で 相談したがらないんだろう。」
暢子「あっ それは…。 オーナーと三郎さんは 結婚するはずだったわけ。 詳しいことは 分からないんだけど。」
和彦「まあ 何があったとしても 今は 三郎さんは 多江さんと 仲よく暮らしてるし…。」
暢子「うん。 であるね。」
和彦「うん。 詮索するのは 失礼になってしまうけど 三郎さんとオーナーは 何で 結婚できなかったんだろうね?」
暢子「だからね…。」
平良家
三郎「おっ 暢子ちゃんの琉装か。」
多江「明日 フォンターナに いらっしゃるそうですよ。 和彦君のお母さん。 うまくいくといいですね。」
三郎「ああ…。 随分 苦戦してるらしいからな。」
多江「今は もう 親が決めた相手と 結婚しなきゃいけない時代でもないし どんなに反対されても 負けないでほしいって そう思ってます。」
三郎「そうだな…。」
レストラン・フォンターナ
(ドアベル)
ホール
山辺「いらっしゃいませ。 ご案内いたします。 こちらのお席でございます。」
房子「いらっしゃいませ。 お待ちしておりました。」
暢子「いらっしゃいませ。」
重子「ごきげんよう。 すてきなお店ですね。」
房子「ありがとうございます。」
暢子「失礼します。」
暢子「お待たせいたしました。 ペペローネ リピエーノでございます。」
重子「頂きます。」
和彦「頂きます。」
房子「いかがですか。」
重子「おいしい。 店員の皆さんも きちんとしてらして 本当に すばらしいお店です。」
房子「恐れ入ります。」
重子「このお料理 あなたが?」
暢子「はい。」
房子「まだまだ 未熟なところはありますが 見どころのある料理人だと思ってます。」
重子「かわいがって 当然ですよね。 お身内なら。 大城房子さん。 最終学歴は 小学校中退。 10代の時から 屋台を引いてらっしゃったとか。 戦後は 闇市で ご商売なさって いろいろと ご苦労されたんですねってね。」
房子「はい。」
重子「沖縄二世なのに ある時から 沖縄県人会とは絶縁されたんですってね。」
和彦「母さん。」
房子「そのとおりです。 いろんなことがありました。 今の法律や常識では 考えられないようなことも。」
重子「たくましいですね。 そんな過去とは縁を切って こんなに すてきなお店を…。」
房子「いいえ。 過去とは 縁を切れません。」
重子「そうなんですか?」
房子「過去も未来も含めて 私の人生。 だから 昔のことを 隠すつもりも 恥じることもありません。 どうぞ 気の済むまで お調べになってください。 でも 今は この子が作った料理を ごゆっくり楽しんでいただけると。」
重子「お手並み拝見ね。 さぞかし 特別に作られたんでしょうね。」
暢子「いつもどおりです。 オーナーに言われました。 いつもどおりの自分を信じろと。 18の時に 料理人になりたくて やんばるから出てきました。 村には 外食できるお店は 一軒もなくて 沖縄では レストランに行ったことは 一度しかありませんでした。」
暢子「フォンターナに来てから 一日も欠かさず 料理だけはしてきました。 その自分を信じなさいと。 亡くなった父が 言っていたんです。 大好きな人と おいしいものを食べると 世界中の誰でも 笑顔になるって。 お客様の笑顔のために作った いつもどおりのフォンターナの料理です。 ごゆっくり お召し上がりください。 失礼します。」