リビング
恵里「どうぞ。」
静子「で… 今日は 何?」
恵里「え? いや 何ってことは ないんですけど…。 あ そうだ! 私 クーブイリチー 作って持ってきました。 おいしいですから 食べて下さい。 チョット 温めますから。」
静子「あ いい いい ありがとうね。」
恵里「あ はい。」
静子「あのね 恵里ちゃん 独り暮らしの老人じゃないから 様子を見にこなくて いいのよ。」
恵里「そんなわけじゃないですよ。 だって 家族でしょう?」
静子「あ まあ… いや でもね。」
恵里「あの やっぱり ダメですか? 家族は 一緒に暮らした方が いいと思うんですけど。」
静子「だから 何度も言うようだけど 一概には 言えないと思うのよ。」
恵里「はあ。」
静子「あなたと文也は 好きになって 結婚したわけだから 元は他人でも 新しい家族だし それをつくっていけばいいと思う。 前にも言ったと思うけど 私は『文也は 文也の人生 私は 私の人生』って考え方だから。 まあ 古波蔵家とは違うかもね…。」
恵里「はあ… 嫌ですか?」
静子「はあ そんな顔されちゃうと 困っちゃうなぁ。」
恵里「あ すみません。」
静子「そうじゃなくて ひとつの家にね 女の人が2人いるってのは そもそも 難しいと思うのよ。『うまくいかなくて普通だ』って 私は 思うわけ。 そりゃ 恵里ちゃんの家は うまくいってると思うけど 皆が皆 勝子さんとおばぁみたいに いかない。 いや むしろ そうじゃない場合のほうが 多いんじゃないかな。」
恵里「そうなんですか?」
静子「そうよ。 世の中の人 ほとんどが そうだと思うわよ。 中にはね 鬼嫁とか 鬼姑
とかが いるくらい。」
恵里「『鬼嫁』? 怖いですね。 何ですか? それ…。」
静子「『鬼嫁』? たとえば 週刊誌に載っていたんだけど。」
恵里「はい!」
静子「あれ? 違う 違う。 それは どうでもいいのよ。 それくらい うまくいかないのが 当たり前って 私は言いたいわけ。」
恵里「はあ そうですかねぇ。」
静子「私は 別に しかたなくて 別居してるわけじゃなく その方がいいのよ。 恵里ちゃんは 1人だから 寂しいと 思ってると思うけど 全然 そんなことないのよ。 それ 分かってくれるかな。」
恵里「はい。」
静子「だから そんなに 気を遣って 来なくてもいいのよ。 あれ? 夜勤あけでしょ その顔。 もう 早く帰って 寝なさい。」
恵里「はい 分かりました。」
静子「あ そう!」
恵里「また 来ますね。」
静子「いえ だから…。」
恵里「戸締りとか 気をつけて下さい。 あ クーブイリチー おいしいですから なるべく早く 食べて下さい。 じゃ 失礼します。」
静子「あ…。」
古波蔵家
勝子「恵里は 大丈夫かな?」
恵文「何が?」
静子「だってさ 別居してる訳でしょ? 静子さんに嫌われてしまったかな。」
恵文「そうかね?」
勝子「1回 行ってきた方が いいかね?」
恵文「なんか 結婚したら 逆になってしまったね。」
勝子「え?」
ハナ「無理に一緒に住むことない。」
勝子「何でです?」
ハナ「静子さんのことを考えるとね。 嫁と一緒に住むということは 大変さぁ。 いろいろ気を遣って 疲れるさ。 しょせん 他人だから。」
勝子「ん? どういう意味ですか おかあさん。」
ハナ「何?」
勝子「おかあさんは 私に気を遣って 疲れてるわけですか?」
ハナ「おばぁは そんなこと言ってない。」
勝子「言ってるでしょ。 そんなら 私も 言わせてもらいますけどね。」
ハナ「何ね?」
恵尚「いやいやいや 2人とも やっぱり…。」
勝子「うるさい!」
恵尚「はい。」
恵文「あらら。」
勝子「私だって どれだけ 自分を殺して 今日まで やってきたか。」
ハナ「そうね?」
勝子「『そうね』って…。」
恵文「いや やめようよ 何で こうなる? 恵里のことを話していたさぁ。」
勝子「分かってます そんなこと。 だいたい 恵文さん。」
恵文「はい。」
勝子「あなたが しっかりしないから 私や おかあさんが 苦労するんでしょ?」
ハナ「そうだよ。 勝子さんの言うとおりさ。」
勝子「そうですよねぇ。」
ハナ「そうさぁ。」
恵文「何か それは!」
恵尚「あれだね オヤジさんが しっかりしないのがさ 嫁姑が うまくいく秘訣かもね。」
勝子「あ? そうかもね。」
ハナ「そうかもしれないねぇ。」
恵尚「うん」
ハナ 勝子「(笑い声)」
恵文「何か それは… ふん。」
3人「(笑い声)」
恵文「おかしくないさ! ちっとも!」