一風館
みづえ「気を利かしてくれたのね あの子達。」
島田「そうかな?」
みづえ「ええ。」
島田「みづえさん。」
みづえ「はい。」
島田「すまないね…。」
みづえ「何を おっしゃるんですか? 大心さん。」
島田「ん?」
みづえ「私は 家族をつくり損ねてしまった 人間だから。 あの戦争のお陰で。 下宿屋を始めたのも そのためかも…。」
島田「そうか…。」
みづえ「だから 大事にしてあげて下さい。 今日いらした あの息子さんだって いい人に違いないわ。」
島田「ありがとう。 みづえさんのコーヒーも もう 飲めなくなるね。」
みづえ「お別れ会をしないとね…。 腕を振るわないと いけないわね。」
ゆがふ
容子「柴田君。」
柴田「はい?」
容子「柴田君はさ どんな家族だった?」
柴田「そうですね。 家 牧場なんですよ。 おやじは とにかく 働き者だった。 朝 早いんですよ。 休みもないし 僕が起きた時には 働いてた。 おふくろもね 僕が寝た後も 何か 働いてたなぁ。 だから 働いてる記憶しかない。」
恵達「うちと えらい 違いだね。」
恵里「であるね。」
柴田「古波蔵家とは違うのかもしれない。 おやじ しゃべる人じゃなかった。 でも 家族は ずっと一緒でした。 何しろ 家から隣の家に行くのに 歩いて 20分くらい かかりました。」
恵里「へえ…。」
容子「私のうちは 長野なんだけど もう メチャクチャ 厳しい家でね。」
恵里「あ そうなんですか?」
容子「父は 学校の先生でさ。 ガチガチの堅物。 口にひげ はyして 真面目一筋 怖くてね。」
文也「へえ?」
容子「私は 高校卒業するまで メチャクチャ 箱入り娘 門限7時よ。」
恵達「7陣!」
容子「そうよ。 男の子から 電話かかってきても 取り次いでくれないのよ。 その男の子に お父さんが お説教しちゃったりするの。『きみは今 女の子の事 考えてて いいのか? もっと考える事があるだろう』とか 言っちゃってさ。」
恵里「へえ すごいですね。」
容子「大学卒業してから その反動で 遊びすぎ もう大変よ。」
兼城「そんなに?」
容子「そうよぉ。 私ね弟と2人なんだけど 実家には 弟が一緒に住んでて 子供がいて。 たまに帰ると 大変よ。『どうして結婚しないんだ』と…。 お見合い写真 山のように そろえて 待ってるのよね。」
兼城「容子さん 東京には 俺がいると 親に言えばいいさ。」
容子「ははん…。」
兼城「笑って流さないでちょうだい!」
容子「古波蔵家は だいたい分かるけど 文也君は?」
文也「僕ですか? 僕の場合は 家族で何かしたという 思い出 あんまりなくて…。 兄貴 小さい頃からずっと入院して 大変だったと思う。 父も母も。 でも 家の中は 暗いとかいう 雰囲気はなくて…。」
文也「そういうとこ 父も母も 僕のこと 考えてくれてたんだなと思って。 子供心にも それが分かって 家では わざと ふざけたりして。 なんか 笑ってほしいなと思って。 ませた子供だったかもしれない。」
容子「それで そんなに気が付く 気遣い屋さんになったのね?」
文也「そうなんですかね?」
柴田「やっぱり 影響しますよね 家族って。」
容子「だから 恵里ちゃんには ぴったりなんだよ。」
恵里「そうですか?」
恵達「僕も やっと 肩の荷が下りますよ。」
容子「お疲れさま。」
恵達「ありがとうございます。 頑張ってね 文也君。」
文也「うん 頑張る。」
恵里「ちょっと! 何ね? 本当に!」