鈴鹿「すてきな声だわ。」
春子「え?」
鈴鹿「歌手 目指してらしたんでしょ? 私と似てる気する 声が。 ねえ 天野さん 似てるわよね。」
春子「似てませんよ。」
鈴鹿「似てるわよ。」
春子「似てないと思いますけど。」
鈴鹿「あれじゃない? 自分の声って ほら 自分じゃ 違って聞こえるじゃない? 客観的に聞いたら 似てるわよ。 ねえ 大将!」
鈴鹿「何それ デ・ニーロのつもり? 腹立つ…。」
春子「何の話してたんでしたっけ?」
鈴鹿「録音したら分かるわよ。 似てるわよ きっと。」
春子「どうなの? アキ。 ちゃっと やってるの?」
鈴鹿「『ちゃんと やってるの?』。 ほらね そっくり! ハハハハッ! ごめんね しつこいわよね。 やってましたよ もちろん 立派に。 だから 辞められたら 困っちゃうの。 天野さんがいないと 私… 迷惑メールの拒否のしかたも 分からないんだもの。」
春子「そんな事 褒められても うれしくないんですけどよ。 付き人としてじゃなくて アイドルとしての資質の話です! 正直 分かんないんですよね。 親の欲目もありますし。」
鈴鹿「自分の娘は かわいいものよね。」
春子「まあ 離れて暮らしてるしね。 だから ちょっと その… 安心してた部分もあって 鈴鹿さんが その アキの親代わりじゃないけど…。」
鈴鹿「『親代わり』?」
春子「…じゃないけど。」
鈴鹿「私が? 天野さんの親!? 何で? 何の因果で?」
春子「『…じゃないけど』って 言いましたよね? ちゃんとね。」
鈴鹿「困るんです。 そういう過剰な期待。 あなたが そうだとは言わないけど 厚かましいのよね ステージママって。 付き人なんだから 面倒見てもらって 当然だと思ってるのよ。」
春子「ステージママ!?」
鈴鹿「あなたが そうだとは言ってないけどね。」
春子「私が アキの? ステージママ!?」
鈴鹿「だから あなたは違うのよ。」
春子「ステージママ~!?」
アキ「やめてけろ ママ! 鈴鹿さんと おらは 確かに親子ではねえ。 何つうか 友達っつうか…。」
鈴鹿「友達!?」
アキ「いやいや…。」
鈴鹿「私の事 友達だと思ってたの!? だから ずっと タメ口だったの!?」
アキ「いや いや いや!『友達っつうか』って言ったべ?」
鈴鹿「だったら 払ってよ! たまには おすし おごってよ! 友達でしょ~?」
春子「…つうか 辞めんの?」
鈴鹿「え?」
春子「さっき 辞められたら困るって おっしゃいましたよね。 あんた 辞めんの? 付き人 辞めちゃうの?」
鈴鹿「そうですよ。 だから 今日は ねぎらいの宴だったんです。」
春子「辞めんの!?」
水口「え? ええ。 もともと 太巻さんの紹介で いろいろ 勉強させて頂いてましたので…。」
春子「太巻さんのとこ クビになったら こっちも お払い箱なんだ。」
鈴鹿「彼の事 ご存じ?」
春子「知ってますとも。 有名人ですもんね~。 本も読みましたよ。 あれ 何だっけ?『太いものには巻かれろ』とか『続・太いものには巻かれろ』とか『細いものには巻かれない』とか『巻かれて太くなれ』とかね どれも 自慢話でしたけどね。」