天野家
春子「見送りにも来てくれなかったしさ。 結局 夏さんが あの時 どんな気持ちだったのか いまだに分かんない。 応援する気持ちがあったのか それとも この町に残ってほしかったのか。」
アキ「どっちもじゃない?」
春子「どっちも?」
アキ「うん。 もちろん 寂しいって思う気持ちも あっただろうけど 頑張れって気持ちもあったんだよ。」
春子「どうして そう思うの?」
アキ「分がんねえ。」
春子「都合悪くなると なまるよね あんた。」
アキ「だって ママが東京行かなかったら パパと知り合ってないし 私も生まれてなかったし…。 えっ? 生まれない方が よかった?」
春子「何 言ってんの?」
アキ「私が生まれたから アイドル諦めたの?」
春子「そんな訳ないでしょ バカな事 言わないのい。」
アキ「じゃあ 何で諦めたの?」
春子「ああ…。 まあ いろいろあったのよね。 でも あの… 全然 アキのせいじゃないからね。 だって あんた産んだの 25の時だもん。 …つうか 親って ホントに難しい!」
アキ「えっ 何で?」
春子「だって アキが『海女やりたい』って 言いだした時やさ『南部もぐり やりたい』って 言いだした時にさ いまひとつ こう… 強く出れないのよ ママね。 だって アイドルになりたかったんだよ。 なれると思って 高校やめて 勝手に東京行っちゃったんだよ。 あ~ もう 何か いっぱい しゃべったら おなかすいちゃった! フフッ。」
アキ「アハハハッ。」
忠兵衛「それはねえべ 夏ちゃん!」
アキ「あれ どうしたの?」
忠兵衛「アキ いいとさ来た。 ここさ座れ。」
アキ「えっ 何 何?」
春子「おなかすいた。 何か作ってよ。」
忠兵衛「あ~ いいから 春子も。」
夏「ラーメンでも作るべ。」
春子「ああ ラーメンいいね。 何 何?」
忠兵衛「アキ おじいちゃんな… 漁師やめるじゃ。」
アキ「じぇじぇ!」
忠兵衛「日曜の船さ乗って 沖さ出る予定だったけどな。 やめた。」
春子「えっ どういう事?」
忠兵衛「もう年だべ。 無理して 船さ乗んなくても いいかと思って…。 夏ちゃんもい心配みてえだし アキもいるし 春子もな。 だから 陸(おか)で 第2の人生 楽しむかってな。」
春子「そっか。 そうなんだ。」
忠兵衛「明日 漁協さ行って 引退宣言してくるじゃ。 ついでに 仕事紹介してもらうべと思って。」
春子「長い間 御苦労さまでした。 ビール飲む?」
忠兵衛「おお もうらべ!」
春子「よし。」
アキ「えっ? じゃあ じいちゃん ここで 一緒に暮らすのか?」
忠兵衛「当たり前だ おめえ! ここは おらのうちだど。」
アキ「やった~! ばっぱ いがったね!」
夏「ヘヘヘヘッ まあな。」
忠兵衛「アキ ほら 飲むか?」
アキ「飲めないよ。」
夏「定期健診の結果 あまり よくねがったみたいだ。」
春子「えっ…。」
忠兵衛「あっ 漬物あったべ。 持ってこい。」
夏「あ~ はいはい はいはい。」
<一度は死んだと思い込んでいた 父 忠兵衛。 幸い元気に暮らしていますが 67歳のおじいちゃんなのです>
忠兵衛「あっ 春子も来い。」