鈴鹿「『潮騒のメモリー』懐かしい。 …っていうか 覚えてない。」
荒巻「デビュー作なのに。」
鈴鹿「たま~に カラオケで入れてみるんだけど 何でだろう? 全然 歌えないの。」
荒巻「…。」
鈴鹿「忙しすぎたのよね あのころは。 2時間睡眠 当たり前だったもの。」
荒巻「鈴鹿さん そろそろ…。」
鈴鹿「え~? まだ いいじゃない。」
荒巻「会議 抜け出してきてるんで。」
鈴鹿「あっ そう…。 じゃあ 私も帰るわ。 ねえ 大将 タクシー呼んでちょうだい。」
鈴鹿「何あれ…。 小林薫(こばやしかおる)のつもりかしら? あっ いいわよ。 ここは私が。」
荒巻「すいません。 それでは お先に。 また今度 ゆっくり。」
伊東「ありがとうございます。」
<それから 30分ほどで 鈴鹿さんは帰っていきました>
種市「すげえ世界にいるんだな 天野。」
アキ「…はい。」
種市「やっていけんのか? アメ横女学園だって すげえ人気だけど 俺ぐらいだと顔分かるの せいぜい 7~8人だべ。」
アキ「アメ女八賢伝(はっけんでん)な。 そのほかに メンバーが 40人~50人いるらしい。」
種市「その下って事だろ?」
アキ「まさに 下で踊ってる。」
種市「いいのか? それで。」
アキ「いい訳じゃねえが 今は それしか 道はねえし せめて ユイちゃんが来るまでは。」
種市「来ねえんじゃねえかな。」
アキ「え?」
種市「あいつ… もう諦めてんじゃねえかな。」
回想
ユイ「すぐ行くからね! すぐ行くからね! すぐ行くから 待っててね! すぐ行くから! すぐいくから! 待っててね アキちゃん!」
回想終了
アキ「そんな… やめて下さいよ。 縁起でもねえ。」
種市「出ばなくじかれたっつうの? もう後れ取っちゃってる訳だべ。 来ても 舞台の下から スタートだべ? 耐えられねえと思うんだ。 天野と違って ユイは プライド 高(たけ)えし エリートだし。 この年まで 挫折を経験した事もねえし…。」
アキ「やめでよ。」
種市「いっそ このまま田舎で 地元アイドル やってた方が…。」
アキ「分がったような事 語んな!」
種市「え?」
アキ「ユイちゃんは来る! 絶対来る! そんな簡単に諦めねえし 弱くねえし 中途半端な事はしねえ!」
伊東「お客様…。」
種市「落ち着け 天野。」
アキ「しっかりしてけろ 先輩! この間まで 70㎏のヘルメットかぶっても シャンとしてだのに…。 縮こまって 情けねえ! 南部もぐりの精神忘れたのか!」
アキ「田舎さ いる頃は 田舎の悪口 東京さ来たら… 東京さ来たら 東京の悪口。 そういうの 一番嫌いだったでねえか。 何だよ エリートで プライド高えのは 先輩の方じゃねえか! 何だよ おらの初恋の相手は こんな ちっちぇえ男だったのかよ!」
梅頭「お客さん。」
アキ「自分が挫折して帰るのは 構わねえが おらとユイちゃんを巻き込むのは やめてけろ!」
梅頭「お客さん。」
アキ「ユイちゃんは来る! 絶対来る!」
梅頭「お客さん!」
種市「分がった! 分がったから。 すいません。 そろそろ帰るべ。」
アキ「これ 持って帰ってもいいですか?」
種市「うん?」
アキ「もったいねえがら 寮の友達さ お土産だ。」
種市「じゃあ お会計…。」
伊東「もう済んでますよ。」
種市「え?」
梅頭「鈴鹿さんから頂いてますんで。」
<あの人 気付いてたんだ…>