アキ「きれいだね。 ママといた頃より 片づいてる。」
黒川「掃除ぐらいしか やる事ないんだよ。」
アキ「ごめん。」
黒川「野菜 食べなさい! 野菜 食べたら 泊まっていきなさい!」
アキ「いい 帰る。 門限あるし。」
黒川「部屋ないのに門限あんのか 理不尽だな。」
アキ「ベッド取られただけだよ。」
黒川「寝袋で寝てるんだろ?」
アキ「最下位だもん しょうがないよ。」
黒川「天野春子の娘だから じゃないのか?」
アキ「そんな いくら何でも そんな露骨な嫌がらせ。」
黒川「太巻なら やりかねないよ。」
アキ「…。」
黒川「とにかく ママを乗っけて 上野まで行ったんだ。」
回想
黒川「上野って事は あれですか? ご旅行か何かですか。」
春子「東北の方です。」
黒川「東北 いいですね。 東北 いいですよね。」
回想終了
黒川「思い出してほしくて いろいろと 話を振ってみたんだけど 全然 駄目で 結局 上野駅で降ろして…。」
アキ「そんで?」
黒川「ロータリーで車回して 世田谷へ引き返そうと思ったら…。」
回想
黒川「あれ?」
春子「世田谷まで。」
黒川「いや お客さん さっき 世田谷から 乗りましたよね。」
春子「えっ? あ…。」
回想終了
アキ「じぇじぇ! なして? どういう事?」
黒川「二度あることは三度あるだろ。 何か 運命 感じちゃってさ。 もう何か『東京湾に 沈んじゃってもいっか』なんて。」
アキ「いいがら 早ぐ声掛けろよ!」
黒川「せかすなよ アキ。 デザート食べなさい。」
アキ「要らねえ!」
黒川「どうした?」
アキ「だって パパとママが くっつかねえと おら この世さ生まれてこねえべ!」
黒川「くっついたから生まれたんだよ。」
アキ「そうだけど…。」
黒川「会話も途切れて 半ば諦かけてたら 原宿(はらじゅく)だか 表参道(おもてさんどう)辺りで 奇跡が起こったのよ。」
回想
(ラジオ)『それでは【転校生は つらいよ】さんのリクエストで【潮騒のメモリー】』。
♬~(『潮騒のメモリー』)
春子(ラジオ)♬『来てよ その火を 飛び越えて 砂に書いた アイ ミス ユー』
黒川「♬『北へ帰るの(鼻歌)』懐かしいな… いいですよね この曲。 確か 鈴鹿ひろ美でしたっけ? 好きなんだよなあ…。 歌うまいっすよね。」
春子「止めて。」
黒川「え?」
春子「降ろして。 …っていうか 戻って 上野に。 やっぱ帰る。」
黒川「いやいや お客さん。」
春子「止~め~て!」
黒川「いや…。 これ歌ってるの お客さんですよね!」
春子「え?」
黒川「知ってますよ。 覚えてませんか? あの時の運転手です。」
(クラクション)
春子「どの時の?」
黒川「ほら あの時の あほんだらです 私。」