スナック梨明日
黒川「たまたま 私が 春子さんを 客として乗せたんです。 それが出会いでした。 まだ個人じゃなくて 会社の車で走ってました。 世田谷から上野駅まで乗せました。 春子は 東京で いろいろあって 疲れて『もう田舎に帰るんだ』って 言ってました。」
大吉「上野って事は おめえ 東北本線さ乗って 帰ろうとしてたって事でねえが!」
今野「何すんだ おめえは。 今がら ちゃんと話すっから ちょっと待ってろ。」
大吉「ウーロン茶ロック!」
弥生「はいよ。 お客さんは?」
黒川「あっ ウーロンハイで。」
弥生「はいよ。」
回想
1989年(平成元年)
黒川「上野って事は あれですか? ご旅行か 何かですか?」
春子「東北の方です。」
黒川「東北! いいですね~。 東北いいですよね。」
黒川『道が混んでて いろんな話をしました。 お互いの身の上話とか 世間話とか。 そして 上野駅で降ろしたんですが…。』
黒川「あれ?」
春子「世田谷まで。」
黒川「お客さん さっき 世田谷から 乗りましたよね?」
春子「えっ? あ…。」
回想終了
黒川『…という訳で 来た道を世田谷まで戻りました。』
大吉「この野郎 何で戻った!?(弥生にペットボトルで叩かれる)あっ…!」
黒川「それで 連絡先を交換して 相談に乗ったりしているうちに 交際に発展しまして…。」
大吉「もう許さね! 表さ出ろ お前! アタタタタッ!」
黒川「すいません。 僕 こう見えても 空手の黒帯なんです。」
大吉「ギブ ギブ ギブ!」
黒川「東京は タクシー強盗多いですからね。 自分の身は自分で守らないと。」
弥生「ほう…。」
大吉「ウーロン茶ロック!」
弥生「はいよ。」
大吉「くっそ~! 腹が チャッポンチャッポンって…。 それでも俺は 飲むしかねえのか。」
黒川「その時に結婚して その2年後に アキが生まれました。 なるべく 僕は 家族と一緒に 過ごせるように シフトを組んで 土日は仕事を休んで 平日も夜6時には切り上げて 寄り道せずに…。」
弥生「それが いぐなかったんでねえの?」
黒川「だから それが分からないんです。」
弥生「時間どおりに帰ってきたのが 不仲の原因じゃねえのって。」
黒川「家庭を顧みない父親よりは ましでしょ。」
弥生「ましだけど メリハリがねえべ。」
今野「んだんだ 面白くねえじゃえ。」
黒川「うん? な… 何?」
弥生「ガキの頃よ おらの父ちゃん イカ釣り船さ乗ったのよ。 半年に一遍しか帰ってこないの。 …で 帰ってきた時は 母ちゃん そりゃ うれしそうな顔してんのよ。 でも まあ 1週間だな。 そのうち『邪魔だ 邪魔だ~。 顔も見だぐねえ』って けんかばっかりしてんのよ。」
弥生「アハハハッ! 分がる? 時には 距離を置ぐのも 長続きの秘訣だよ。 年がら年中 一緒にいだら 会話も無くなっぺよ。」
今野「まあ 中にはなあ 大吉っつぁんみたいに 一緒に住む前に別れるのも いっけどな。」
大吉「何だと この野郎! やるぞ~!」
今野「お~ 何だ 何だ? おい!」
弥生「大吉 大吉!」
大吉「(いびき)」
弥生「何だ ウーロン茶で 酔っ払いやがって 安上りだなあ!」
黒川「やっぱり!」
弥生「何だ?」
黒川「これ ウーロン茶。 こっちが ウーロンハイ。 何か この店 ウーロンハイ薄いなと思ってたら おかあさん 間違えて出してる。」
今野「ありゃりゃりゃ つう事は?」
黒川「この人 ずっと ウーロンハイ飲んでた。」
弥生「じぇじぇじぇ!」
大吉『(寝言)Ghostbusters…。』
(たたく音)
大吉「痛い 痛い 痛い!」