震えながらコーヒーとケーキを運ぶ梶取夫婦w
保「うれしい…。」
環「大体のことは 奥様から聞いてらっしゃるかしら?」
裕一「はい。 あの… ま ま… まことに まことに 光栄に あの 思いますけど… ど ど ど… どうして…?」
環「『船頭可愛いや』が 大変すばらしい曲だからです。」
裕一「あっ…。」
環「西洋音楽をベースにしながら 流行歌としての親しみやすさも 兼ね備えている。 これが評価を受けないなんて 日本の音楽業界は後れていると 感じました。」
環「私が オペラの世界で 広く認めてもらえるようになったのも プッチーニが 私を見つけてくれたから。 私は… いい音楽を広めたい。」
環「あなたの音楽を大勢の人に届けたい。 古山さん。」
裕一「はい。」
環「私に歌わせて頂けますか?」
裕一「も も… もちろんです! よ… よろしくお願いします!」
コロンブスレコード
廿日市「ええっ!? あの双浦 環が!?」
役員たちに直談判する廿日市と裕一
廿日市「社長… あの 世界の双浦 環ですよ! 話題性 抜群! 絶対に売れます! 間違いありません!」
裕一「わ… 私からも お願いします! 是非 もう1度 双浦 環さんの歌声で ろ… 録音させて下さい!」
廿日市「どうか ひとつ!」
専務「双浦 環が歌うってことは 青レーベルから発売するということか?」
販売部長「そうなりますね。」
専務「赤レーベルの作曲家が作った曲を 青レーベルの歌手が歌うというのは どうなんだろうね?」
廿日市「世間は 赤とか青とか 気にしませんって!」
社長「世間は ともかく… 小山田先生がね…。」
裕一「えっ?」
喫茶店 バンブー
音「えっ 許さん? 小山田先生が? 何で あの人が口挟むの?」
裕一「嫌先生は 青レーベルの中心人物だからって 会社の上の人が お伺い立てたらしい。」
音「何? それ。」
裕一「いや 会社も 先生の機嫌 損ねたくないみたいだし 廿日市さんも すっかり おとなしくなっちゃって…。」
音「じゃあ 環先生は歌わせてもらえんの?」
裕一「あの… う~ん…。」
音「許さん。 私 行ってくる。」
裕一「いやいや いやいや… ちょっと落ち着いて。 ねっ? ちょっと…。」
環「古山さん。」
裕一「うん。」
環「私に任せて。」
小山田の屋敷
小山田「君が訪ねてくるのは珍しいな。」
環「お忙しいところ 突然すみません。」
小山田「…で 何かな?」
環「理由をお聞かせ下さい。」
小山田「理由?」
環「『船頭可愛いや』の件です。 なぜ 反対されていらっしゃるのか。」
小山田「フフッ… そんなことは 説明しなくても分かるだろう。 青レーベルは西洋音楽 赤レーベルは流行歌 それがルールだ。」
環「でも 小山田先生も 赤レーベルで曲を書かれていますよね?」
小山田「青レーベルの私が 赤で書くのと 赤レーベルの新人作曲家が 青で書くのと わけが違う。 身の丈があるだろう。」
環「赤とか青とか その区分は そんなに こだわるべきものですか?」
小山田「だったら なぜ 君は あの男にこだわる? コロンブスのお荷物だぞ。」
環「その古山さんをコロンブスレコードに 推薦したのは 小山田先生ですよね? その目…。」
環「私 その目を見たことがあります。 ドイツにいた頃 先生と同じ目をした 芸術家たちをたくさん見ました。 彼らは皆 自分の立場を脅かす 新しい才能に敏感です。」
小山田「フッ… バカバカしい。」