喫茶店 バンブー
音「でね 裕一さんったら 自分の作曲 そってのけで 久志さん 合格させるのに必死なの。」
恵「裕一さんの方が その気なんだ~。」
保「新聞で見たよ。 随分大きな広告だったね。」
音「そう 全国版だって。」
華「ねえねえ お母さん 見て。」
音「おっ すごいね!」
御手洗「ごめんくださ~い。」
恵「いらっしゃいませ~。」
御手洗「ちょっと お伺いしたいんですけど こちらの住所 ご存じかしら?」
恵「う~ん… ねえ…。」
音「御手洗せ… ミュージックティーチャー?」
御手洗「音さん? あ~ よかった!」
音「お久しぶりです。」
御手洗「今 ちょうど あなたのところへ行こうとしてたのよ~。」
音「えっ?」
御手洗「まあ! なんてかわいらしいプリンセスなの。」
音「娘の華です。 華 『こんにちは』は?」
華「こんにちは…。」
音「どうして 東京に?」
音「コロンブスのオーディション!? 御手洗ティーチャーが?」
御手洗「今は もう ティーチャーじゃない。 私のことは スター御手洗と呼んでちょうだい。」
音「スター御手洗…。」
御手洗「私 必ず合格するもの。」
音「どうして…?」
御手洗「『経験不問 年齢不問 性別問わず』。 新聞の募集記事を見た時 心臓が高鳴ったわ。 まるで 私のためのオーディションだって。」
音「レッスン やめちゃったんですか?」
御手洗「生徒さんたちも みんな 理解してくれたわ。 私 最後のチャンスに賭けてみたいの。」
御手洗「でね… 戦略を練るためにも 裕一さんに いろいろとお話を伺いたいと思って。 今も まだ コロンブスにいるんでしょう?」
音「ええ。 でも あの…。」
裕一「ちゃんと聞いてよ 本当に…。 あっ! …えっ? 御手洗先生… えっ えっ? ミュージックティーチャー!」
御手洗「オー ミラクル! 今 ちょうど あなたの話をしていたところよ!」
裕一「えっ? ちょ… な… 何で?」
音「コロンブスのオーディションを 受けられるんだって。」
裕一「あっ… 僕の友人も 今 応募してきたところなんです。」
御手洗「どうも 御手洗清太郎です。」
久志「どうも 佐藤久志です。」
御手洗「どうも… スター御手洗です。」
久志「僕は プリンス… プリンス佐藤久志です。」
御手洗「どうも スター御手洗です。」
久志「佐藤久志だ。」
御手洗「スター御手洗です。」
久志「何を回ってるんだ。」
御手洗「回っちゃ 何で駄目なのよ。」
久志「うん?」
御手洗「回っちゃ 何で駄目なのよ…。」
華「スターとプリンスって変なの!」
音「すてきだね。」
古山家 裕一の仕事場
裕一「もう… なにも別々に食べなくていいのに…。」
久志「戦場で敵と同じ食卓で食うやつがいるか?」
裕一「はいはい。」
久志「あの気取り屋 実力あんのか?」
裕一「御手洗先生は 音が豊橋でお世話になった 声楽のコーチ。 ドイツ帰りの超本格派! 頂きます。」
久志「敵として 不足はなさそうだな。」
裕一「言っとくけどね ほかにも ライバル いっぱい いるんだからね。 そもそも書類審査も通ってないんだから。」
久志「ドイツ帰りか…。」
居間
御手洗「そう… 東京帝国音楽学校にねえ。 で で… 成績は?」
音「常に トップクラス。 プリンスって呼ばれてました。」
御手洗「スター御手洗に プリンス久志の戦いってわけね。」
音「あの~ 滞在中は どちらに宿泊されるんですか?」
御手洗「ホテル取ってたんだけど… お財布 すられちゃって。」
音「あっ それで うちに?」
御手洗「ヘルプ ミー プリーズ。」
音「うちは構いませんが…。」
御手洗「サンキュー! これで いつでも レッスンできるわね。」
音「あっ はい。 フフフ。 あっ どうぞ。」
御手洗「頂きます。」
音「華 食べなさい。」
御手洗「何? あらやだ… お宅 白みそなの?」
音「裕一さんが こっちの方が好きなんです。」
御手洗「豊橋の人間とあろうものが 八丁みそを譲るなんて…。」
音「そのかわり 納豆は許してませんから。」
御手洗「当然よ! プリンス久志め… 必ず蹴落としてみせるわ。」
スター御手洗と プリンス久志の戦いが 今 始まりました。 まあ 2人とも まだ 書類審査 通ってませんけどね~。