関内家(吟)
吟が豊橋に帰らなかったのは 智彦の就職が いまだ決まらなかったからです。
智彦の面接
智彦「ありがとうございます!」
面接官「うちは今 人手が いくらあっても困りませんから。」
智彦「家からも近いし よかった。」
面接官「ああ… 職場は ここじゃありません。 蒲田の工場です。」
智彦「工場?」
面接官「ええ。 くず鉄集めしてもらいます。」
闇市
回想
智彦「自分は これでも 長年 国に奉公してきた人間です。 いきなり 鉄くずを集めろと言われても…。」
面接官「戦争は終わったんですよ。 輝かしい経歴は何も価値もない。 早く その辺に気付かないと。」
智彦「こんな会社… こっちから願い下げだ!」
面接官「あのさ… 一杯のラーメンだって 作るの大変なんだよ。 あんた できる? うまいの作れるの?」
智彦「フンッ。」
古山家
近所の声
「お前 知らんのか?『露営の歌』とか『若鷲の歌』とかの作曲家の家だ。」
「焼けてないんだな。 運がいい。」
「作詞した西條八十とかは 引っ張られてんのに 作曲家は無罪放免らしい。」
「はあ~ 戦争で たんまり稼いで 何のおとがめもない。 羨ましいわ。」
「なにが『勝ってくるぞと 勇ましく』じゃ。」
「本当 よう のうのうと生きてられんな。」