絹代「それで 誕生会にも 行けなくなって これ持って うろうろしとったかね。」
藍子「うん。」
絹代「早こと 食べなさい! 溶けてしまうよ。」
藍子「うん。」
絹代「初めっから きっぱり断ればええのに ええ顔しようとするけん そげな事にな~わね。」
藍子「うん。」
絹代「あんた 漫画に出してやるって 約束した訳だないんだね?」
藍子「うん。」
絹代「嘘ついた訳だないね?」
藍子「うん。」
絹代「ほんなら ほっときなさい!」
藍子「けど 他の子も 赤木さんの方に ついちゃって…。」
絹代「『千万人といえども我往かん』だわ!」
藍子「何? それ。」
絹代「人が 何と言おうと 自分が間違っとらんなら それでええいう事だわね。 言いたいもんには 言わせとけばええ。」
藍子「でも…。」
絹代「はあ~ ハハハ! これは 随分 前の話だけど 戦争の時には ばかばかしい事が ようけ あったもんだわ! 食べてくだけでも大変だのに 竹ヤリの訓練だ バケツリレーだって やたらと集められて。」
絹代「おばあちゃん そげな事 バカらしいと思っとったけんね 知らん顔して 参加せんだったわ。 そげしたら 隣組の組長さんが どなり込んできて。」
藍子「おばあちゃん どうしたの?」
絹代「『竹ヤリで戦争には 勝てせん!』って言って 追い返した! ハハハハ!」
藍子「わあ!」
絹代「悪口言う人もおったけど そんなもん 相手にしてもしかたない。 竹ヤリでは 戦争に勝てん事ぐらい 誰が考えても 分かる事だけんね。 あんたも もう ほっときなさい!」
藍子「うん。」
絹代「けど これを捨てようとしたのは いけん。 誕生会に言ったふりしたり これ捨てたりしたら 本当の嘘つきになるよ。」
藍子「はい。」
絹代「お母ちゃんに話して ちゃんと返しなさい。 ええね!」
藍子「うん!」
絹代「よ~し! フフフフ! あ! 何か言われたら こげ言い返したらええわ。 『名字帯刀御免の家柄ですけん!』。 分かった?」
藍子「うん!」
絹代「フフフフ!」
水木家
中庭
(風鈴の音)
布美枝「そう。 それで お父ちゃんに 頼んでみてって言ったのか。」
藍子「うん。」
布美枝「お母ちゃん 藍子の話 もっと よう聞いてやったら よかったね。」
藍子「私 分かってたから。」
布美枝「ん?」
藍子「お父ちゃんに そんな事 頼んじゃいけない。 ほんとは 分かってた。 頼まれた時に 断ればよかったんだけど。 ちゃんと言えなくて いい加減な 返事したのがいけなかったの。」
藍子「学校で からかわれるんだ。 『ゲゲゲの娘』って。 私 嫌なんだけど 言い返したいんだけど いつも なかなか言えないの。」
布美枝「藍子…。」
藍子「智美ちゃんにも もっと はっきり 言いなよって言われる。 もう 智美ちゃんにも 嫌われちゃったのかな。 ごめんなさい。 誕生会の事 言わなくて。 プレゼント捨てようとして。」
布美枝「お母ちゃんと一緒だなあ。」
藍子「え?」
布美枝「のっぽだけん 子供の頃 電信柱って よう からかわれとった。 けど 藍子と一緒で なかなか 言い返せんだった。 お母ちゃんも 藍子も ちょっこし内気だけんね。」