水木家
客間
布美枝「すっかり ごぶさたしてしまって 申し訳ありません。」
深沢「いや こちらこそ。」
布美枝「けど 珍しいですね。 深沢さんが 原稿を 取りに見えられるなんて。」
深沢「今日は 少し 水木さんに 話したい事もありまして…。 それにしても えらく変わったなあ。」
布美枝「え?」
深沢「こちらのお宅ですよ。 なんだか 複雑な作りに なったようですが…。」
布美枝「改築熱 まだ冷めないようで まるで 忍者屋敷です。」
深沢「ハハハハ…。 水木さん 幸運を引き当てたな。」
布美枝「お陰様で たくさん仕事が 頂けるようになりまして…。」
深沢「仕事の話じゃありません。 奥さんの事ですよ。」
布美枝「え?」
深沢「昔と ちっとも変わらない。 なんだか ほっとします。」
布美枝「深沢さん…。」
絹代「布美枝さん 保険証 知らんかね? お父さんが どっかへ やってしまって…。 心臓が どうも いけんわ。 病院 行こうにも 保険証が…。 あら お客さん?」
布美枝「あの 『ゼタ』の深沢さん。 水木の母です。」
深沢「どうも 深沢です。」
絹代「あなたが 深沢さん?!」
深沢「ええ。」
絹代「まあ~ まあ まあ ようこそ!」
深沢「どうも。」
修平「おい あったぞ! 電話帳の病院のページに 挟まっちょったでえか。」
絹代「お父さん そげな恰好で。」
修平「え?」
絹代「こちら 深沢さんです。 ほら 『ゼタ』を出しとる会社の…。」
修平「ああ これは 社長さん!」
深沢「どうも。」
修平「せがれが 大変 お世話に…。」
絹代「一遍 ご挨拶をと 思っとったんですよ。 茂の漫画 芽が出んうちから 手厚くして頂いたそうで。 ありがとうございました。」
深沢「私の方こそ 水木さんには 力になって頂いて…。」
修平「茂が 長い事 お世話…。」
絹代「苦しい時の友こそ 真の友といいますけんね。 これからもどうぞ よろしくお願いいたします。」
深沢「こちらこそ…。」
絹代「お父さん ほら あなたからも 言ってごしなさい。」
修平「お前が みんな 言ってしまったでねえか!」
深沢「ハハハハハハ…。」
修平「いつも こげですわ。」
絹代「まあっ。」