玄関
昭和五十九年七月
藍子「行ってきます。」
布美枝「藍子 定期 忘れとるよ。」
藍子「いけない。」
布美枝「試験 落ち着いて 頑張ってね!」
藍子「うん! お母ちゃんも 今日は 緊張しないようにね。」
布美枝「うん!」
藍子「行ってきま~す。」
布美枝「行ってらっしゃい。」
<今日は 藍子の 教員採用1次試験の日です>
台所
喜子「お姉ちゃんは?」
布美枝「もう出かけたよ。 お母ちゃんも 美容院に 髪セットしに行くから あと ご飯 食べたら 後片づけ お願いね。」
喜子「は~い。」
喜子「(あくび)」
布美枝「のんきだねえ。」
喜子「ねえ お父ちゃん 本当は 反対なんでしょう? お姉ちゃんが先生になる事。」
布美枝「遠くの学校に 赴任する事になったら 困ると思っとるみたいだけど。」
喜子「『そんな試験 受けるな~』って 言いそうなとこなのに よく黙ってるね。」
布美枝「藍子には悪いけど 落ちると思っとるみたい。 教員採用試験は 倍率が高いらしいけん。」
喜子「あんなに一生懸命 勉強してるのに 落ちろ落ちろと思われてるなんて お姉ちゃん かわいそう。」
布美枝「そげに頑張っとるの?」
喜子「毎日 夜中まで猛勉強だよ。 意外と やる時は やるもんだね。」
布美枝「いつの間にか 自分の進む道 決めとったけん お母ちゃんも びっくりしたわ。 藍子は しっかりしてきたねえ! あ いけん! あんたと話しとる時間ないわ。 お母ちゃん 美容院 行ってくる。」
喜子「はい。」
布美枝「あと お願いね!」
喜子「行ってらっしゃい。」
布美枝「はい は~い!」
喜子「『自分の進む道』か…。」