連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第142話「人生は活動写真のように」

布美枝「ほんなら この間 銀座を 一緒に歩いていたのは…。」

志穂「先日 ご一緒しましたけど…。」

布美枝「あの なして 父と…。」

茂「ああ 俺も 今 聞いて びっくりしたぞ。 この人はな イトツと 縁のある人だったんだ。」

布美枝「え?」

志穂「この間 伺った時は 気づかなかったんです。 後になって あの時 芝居の話を聞かせて下さった おじいちゃんは 境港キネマの ご主人なんじゃないかって。」

布美枝「境港キネマ?」

茂「イトツが 昔やっとった映画館だ。」

布美枝「ああ!」

志穂「それで 手紙を書いたんです。」

布美枝「手紙…? あ あの時の。」

志穂「村井さんの事は 祖父から よく聞いてましたから。」

茂「この人の おじいさんというのは イトツの映画館で 弁士を やっとったんだ。」

布美枝「はあ…。」

絹代「ああ ほんなら あんたが…。 川西一学(いちがく)さんの お孫さんかね?」

志穂「はい。 一学は 私の祖父です。」

絹代「まあ… 懐かしい!」

両親の部屋

藍子「おじいちゃん 倒れたって?」

喜子「うん。 でも もう大丈夫。」

客間

絹代「お父さんが 映画館 始めた頃は まだ サイレント映画が多かったんだわ。 弁士が おらんだったら どげだいならんけんねえ。 それで 大阪の小屋に出ておられた 一学さんに 境港まで 来てもらっとったの。」

布美枝「そげだったんですか。」

志穂「村井さんが 東京の大学生だった頃 うちの祖父は 浅草で 弁士の見習いをやってて その時からの おつきあいだそうです。」

絹代「一学さん どげしちょ~なさ~の?」

志穂「もう亡くなりました。 去年 13回忌を済ませたとこです。」

絹代「そげかね。」

志穂「弁士の仕事は 無くなりましたけど 昔の映画の話 よく聞かせてくれたんです。 境港キネマの事も よく話してくれました。」

絹代「へえ。 映画館がつぶれて 戦争が あって お互いに ずっと音信不通に なっとったけど… 覚えとってくれたんだねえ。」

志穂「『村井さんは 芸術家の血筋だ。 映画の事を よく分かってる。 商売は下手だけど』って…。 あ… すみません。」

絹代「ええがね。 それは 分かっちょ~けん。 アハハハ。」

志穂「映画の説明の文句や セリフを 村井さんと一緒に考えるのが とても 楽しかったそうです。」

布美枝「セリフを?」

志穂「はい。 弁士の説明や文句は 決まってなくて それぞれが脚本を書くみたいに 自分で作ってたそうです。」

絹代「そげいえば… 夜遅くまで 一学さんと うちで話し込んどった事が あったわね。」

回想

一学「爆発ですか?」

修平「ええ… ここがね クライマックスなんですよ。 ここでね お客の涙を 搾り取りたいという…。」

一学「いいですね それ!」

(修平の笑い声)

回想終了

絹代「お父さん お酒が飲めんけん お茶と ようかんで              夜の更けるまで 楽しそうに 2人で何か書いとったわ。」

志穂「祖父から 聞いて ずっと 気になってた事があるんです。 私 それを お尋ねしたくて 手紙を書いたんです。」

絹代「何かね?」

志穂「村井さんが書いていらした 映画のシナリオの続きです。」

絹代「シナリオ?」

志穂「はい。 港で起きた 船の爆発事故をもとに シナリオを書いていらしたとかで。」

茂「船の爆発事故か…。 ああ 『第三丸の爆発』の事かな?」

志穂「それです。 『とても面白いシナリオだ』と 祖父が言ってました。 でも… 肝心の爆発シーンの前で 話が終わってたそうで。」

布美枝「あら…。」

茂「ああ…。」

志穂「『続きは どんなだったろう』って 気にしてました。 傑作ができたら 一緒に 映画会社に売り込みに 行くつもりだったようです。 それが 祖父の夢だったんですね。」

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