布美枝「すんません。 お茶が切れとりまして。」
雄一「あ~ いや もう! 背広を 取りにきただけだから。」
布美枝「はあ…。」
茂「これ 兄貴からの 借り着なんですわ。」
布美枝「ああ。」
雄一「茂のは よそに預けてあるんだよな。」
茂「ああ ハハハ…。」
布美枝「預けて? 直しに出しとるんですか?」
雄一「いや 銀行に預けとる。」
布美枝「銀行?!」
茂「一六銀行。」
茂 雄一「ワハハハ…。」
<一と六を足して 七屋。 一六銀行が 質屋の事だとは まだ 知らない 布美枝でした>
雄一「布美枝さん どっか出かけるとこ だったんじゃないの?」
布美枝「いいえ。」
雄一「コートを しっかり着込んでるから。」
布美枝「あ ちょっと 寒かったもんですけん。」
雄一「確かに寒いな。」
布美枝「ストーブ 石油が切れとるんです 置いてある場所を 教えてもらえたら 私 やりますけど。」
茂「石油ね…。 ま こうやって 重ね着しとれば しのげるでしょう。」
布美枝「はあ…。」
雄一「ああ 忘れてた。 これ。 ほんの 心ばかりだけど。」
茂「ああ 悪いな。」
布美枝「すんません。」
茂「こっちは 土産もなくて。」
布美枝「あそうだ…。 あの ちょっと ええですか? ちょっと…。」
茂「何です?」
布美枝「すんません。 姉が くれた おそば あちらに半分 差し上げましょうか。」
茂「おお これは ええな。 兄貴 もらいもんなんだけど 半分 兄貴のとこに。」
雄一「お~ 出雲のそばか。」
茂「あ…。」
雄一「じゃ 遠慮なく。」
布美枝「全部か…。」
雄一「布美枝さん。」
布美枝「はい。」
雄一「この近くの深大寺も そばどころなんですよ。 どっかうまい そば屋にでも 連れてってもうらうといい。 はるばる 嫁に来て 新婚旅行にも 行けないんだからね。」
布美枝「旅行は いずれ 仕事が落ち着いたら。」
雄一「ん? 落ち着いたら?」
茂「いつになるかなあ。」
茂 雄一「ワハハハハ。」
(鐘の音)