田中家
キヨ「あ~! あ~ 温(あった)かくて いい気持ちだ!」
布美枝「ここに お灸を据えると よく効きますけん。」
美智子「あなた若いのに 詳しいのね。」
布美枝「母がリューマチで お灸 据えるの よく手伝ってましたけん。」
美智子「そうなの。」
キヨ「よ~く見て 覚えておきな。 お灸ってのはね 変なとこに 据えたら 灸当たりがするんだよ。」
美智子「はい はい。」
キヨ「あの のら息子がさ 店番おっぽり出して 馬の顔 見に行くっていうから とっちめてやろうと 思ったら 自分が このざまだ。 ほんとに。」
美智子「ほっておきましょう。 店番頼んだって どうせ 当てになりゃしない。」
キヨ「甘い顔するから あんなふうになっちまうんだよ!」
美智子「あら! 私のせいですか?」
キヨ「女房が頑張ると 亭主に甘えが出て ダメになるんだよ!」
美智子「おばあちゃんたら! うん。 あら やだ! お客さんの前で。」
原田「奥さん 本 出来ましたけど。」
美智子「はい ありがとう!」
原田「店へ並べておきます。」
美智子「いいわよ あと 私がやるから。 ちょっと 待ってね。 はい 5日間 ご苦労さま。」
原田「は?!」
美智子「少ないけど お給料。」
原田「奥さん そりゃダメだ。 盗み 見逃してもらうために 手伝っただけで。 毎日 飯 食わしてもらって 給料だなんて そりゃダメだ。」
美智子「よく働いてくれたじゃない。 随分 助かったのよ。 それにね。 遠慮されるほど 入ってないから。 これで 一度 田舎 帰って 家族の顔 見てさ。 それから また 出直したらいいじゃない!」
原田「でも 俺。」
キヨ「いいから 早く しまっときなよ!」
原田「ありがとうございます! 遠慮なく頂きます!」
美智子「また いつでも いらっしゃいよ。」
キヨ「うちはね いつだって 誰かね 毎日 油売ってんだよ。 だからね あんたも 気楽に 遊びにおいで。」
美智子「しっかりね。」
原田「はい。 ありがとうございます。」
靖代「おばあちゃん ひっくり返ったんだって?」
徳子「あら 元気そうね?」
キヨ「がっかりしたかい?」
和枝「心配して来たのに!」
靖代「あら? あんた この間の のっぽさん。」
キヨ「そんな言い方しないでおくれ この人はね お灸の名人なんだよ。」
徳子「お灸 名人?」
美智子「そうなのよ。 おばあちゃんの 命の恩人。」
布美枝「いや そんな 大げさな。」