こみち書房
美智子「今日は ありがとう。」
布美枝「いいえ。」
美智子「村井さんって 言ったっけ?」
布美枝「はい。」
美智子「お礼に ご飯でも作るから また 寄ってちょうだい。」
布美枝「はい。」
美智子「私の料理 なかなかなのよ。 うち 元は 食堂だったんだから。」
布美枝「ああ そういえば この間 おばあちゃんが そんな事を。」
美智子「『食堂やってりゃ よかった』って すぐ言うのよ。 まあ いろいろあって 商売替えしたんだけどね。 貸本屋もいいわよ! いろんな人が 本 借りに来るでしょ。 商店街のお得情報から 町の噂まで みんな 耳に入るから。 フフフ! 何かあったら いつでも いらっしゃいね。」
布美枝「ありがとうございます。」
美智子「じゃあ。」
布美枝「あ…。 あの 置き引きの人…。」
美智子「あ! あの人の事も ありがとね。 ん? 何か?」
布美枝「うまくいくと ええですね。」
美智子「うん。 きっと 大丈夫よ。」
布美枝「それじゃ。」
美智子「じゃあ。」
<布美枝は 東京に来て初めて ほっとできる人と 出会った気がしました>
水木家
仕事部屋
布美枝「ただいま 帰りました! あれ? おられん。 お出かけかなあ? 張り込んで 買い物してきたのに。 どこに行かれたんだろう?」
(置き時計の時報)
布美枝「いらん事したから 怒って 出ていかれたのかなあ。」
茂「お~い! ちょっこし 出てきてくれんかね!」
玄関前
布美枝「お帰りなさい。 あれ?」
茂「あんたの自転車です。 中古ですけど ものはええですよ。 俺のは ボロすぎて 乗せられん。 買い物も これで行ったら 楽でしょう。 そうだ 仕事も一段落した事だし サイクリングにでも 行きますか? ね! どげしました? 自転車 乗れますよね? えっ?」
布美枝「これ 買いに?」
茂「ええ。」
布美枝「私 びっくりして…。 だって 自転車 買ってきてくれるなんて。」
茂「いや あんた なにも 自転車ぐらいで… そんな…。」
<思いがけない 茂からの 初めてのプレゼントでした>