連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第2話「ふるさとは安来」

寝室

<おとなしい布美枝は 大家族の中で ちょっと 影の薄い存在なのでした>

登志「『とんと昔が あったげな。 出雲富士の赤池に住む 大きな蛇が 村の器量よしの 娘に ほれて 『嫁にくれねば 村を水に 沈め~ぞ』と言ったげな。 娘は 嫁入り道具に ひょうたん 100個 持って お山に登ったんだと』。」

貴司「馬で行ったかや?」

哲也「し~っ 黙って聞け。」

登志「『娘は 100個のひょうたんを 池に浮かべて【これ 全部 沈めたら お前の嫁になる】て言ったげな。 大蛇は こっちの ひょうたんを 沈めると あっちの ひょうたんが ぷか~。 あっちを沈めると こっちの ひょうたんが ぷか~。 沈めても 沈めても 浮かんでく~けん 大蛇は くたびれ果てて とうとう 死んでしまったげな』。 こっぽし。」

布美枝「おばば。」

登志「ん?」

布美枝「長い話して。」

登志「長い話か。 よ~し 今日のは 長いぞ 天からな 長い長い長~い 長~い フンドシが…。」

居間

源兵衛「布美枝の奴 おっとり者(もん)だと 思ってたが 意外と 肝の太いとこが あるな。」

ミヤコ「何ですかね?」

源兵衛「7つの子が 1人で 港まで どげして 行ったもんだろうか?」

ミヤコ「輝子が心配で 夢中で 駆けていったんですわ。 優しい気持ちからした事ですけん もう 叱らんでごしない。」

源兵衛「いや…。」

ミヤコ「ひょっとして ほんとは 家出だったのかも。 手のかからん子ですけん つい ほっといて そ~で 寂しなって。」

源兵衛「つまらん事 言うな!」

ミヤコ「すんません。」

源兵衛「おお そげだ! わし 今度 米子で 金物の店を始めるけんな。」

ミヤコ「またですか?」

源兵衛「またとは 何だ?」

ミヤコ「この間 炭焼き始めたばっかりで その前は 小間物店…。 呉服屋は どげんなるんですか?」

源兵衛「ごちゃごちゃ言わんで 黙っちょれ! この ご時世だ。 いろいろ 手を広げにゃ 食っていけんわ。」

ミヤコ「(ため息)」

源兵衛「お茶!」

寝室

(虫の鳴き声)

登志「あ…。」

布美枝「おばば!」

登志「うん! 何だ まだ起きとったのか。」

布美枝「あのね 今日『べとべとさん』に 会ったよ。」

登志「『べとべとさん』?」

布美枝「草履の音が 後ろからついてきた。 でも 振り向いても誰もおらん。」

登志「ほう~! それで お前は どげんした?」

布美枝「『べとべとさん』先へお越しって 言ったら 何だいせんで 先に行ってくれた。」

登志「へえ~ そげな まじない よう知っとったな。 怖かったろ?」

布美枝「うん けど ちょっこし面白かった。」

登志「面白かった?」

布美枝「おばばの話と一緒だね。 大蛇や 狐や お化けの話は 怖いけど 面白いもん。 早く続きが 聞きたくなる。」

登志「フフフ! 怖いもんは 面白いか。 布美枝は よう分かっちょ~わ。」

布美枝「うちにも おるかもしれんよ。」

登志「ん?」

布美枝「『あずきはかり』。」

登志「『あずきはかり』?」

布美枝「見えんけど おる。」

登志「見えんけどおる。 う~ん そうか。 さあ もう おやすみ。 いつまでも起きとると 幽霊が 足の裏 ぺろ~っと なめぇぞ。」

布美枝「嫌だ。」

登志「おやすみ。」

布美枝「おやすみ。」

登志「よっこいしょっと…。」

<この日の小さな冒険は 7歳の布美枝に 2つの新しい世界を 見せてくれました。 1つは 初めて行った よその町 もう一つは 目に見えないものの住む 不二義な世界でした>

スポンサーリンク







シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク