その夜
源兵衛「布美枝からか?」
ミヤコ「はい。」
源兵衛「この前 届いたやつか。」
ミヤコ「いえ 今日 着いたんです。」
源兵衛「何だ。 早こと 見せんか!」
ミヤコ「ああ いつもと同じです。 『元気で やっとります。 茂さんも 一生懸命お仕事しとります』。」
源兵衛「ああ 何よりだ。」
ミヤコ「本当でしょうかねえ?」
源兵衛「ん?」
ミヤコ「毎回 毎回 ええ事しか 書いとらんのですよ。 昔から 親に 心配かけないようにと 何でも我慢するような 子でしたけん。 困ってる事があっても 手紙には 書けないんじゃないでしょうかねえ?」
水木家
居間
布美枝「う~ん おいしい!」
茂「そげだろう。」
布美枝「うん。 家で作るのと 全然違いますね。 ん? この お肉 ちくわに 代えたら節約になるかな?」
茂「貧しい発想するな! 今日は もっと 豊かな気持ちでいけ。」
布美枝「せっかく美智子さんに 節約料理 習ったのに…。 そういえば… 太一君 大丈夫かな…?」
茂「ん?」
回想
太一「いい事なんか いつ あるんだよ…。」
美智子「太一君。」
太一「簡単に言わないでくれよ!」
回想終了
茂「本人が奥で聞いてとったとは 間の悪い事も あるもんだなあ。」
布美枝「はい。 どんなに きまりが悪かったかと思うと かわいそうで…。」
茂「うん。」
布美枝「美智子さんも お気の毒なんです。 励ますつもりが 太一君を 傷つけてしまったって すっかり落ち込んでしまって…。 はあ… 何か 力になる事 ないんだろうか…?」
茂「ふん ふん。」
布美枝「今度 会った時 何言おう…?」
茂「知らん振り しとれば ええ。」
布美枝「え? いや けど…。」
茂「おい 水。」
布美枝「あ はい…。」
茂「あんたが 気に病んでも どうにもならんよ。」
布美枝「(小声で)案外 冷たいんだな。」
<それから しばらく経った ある日の事…>
玄関前
(ノック)
電報局員「村井さ~ん!」
布美枝「は~い!」
電報局員「あ こんにちは 電報局です。」
布美枝「あ…。」
電報局員「村井布美枝さんに電報です。」
布美枝「あら 私に?」
電報局員「はい。」
布美枝「あ ご苦労さまです。」
電報局員「はい 失礼しま~す。」
居間
布美枝「えっ!」
茂「どげした?」
布美枝「22日って… 明日だ! はあ…。 東京 來るって… どげしよう…。」
<電報は 懐かしい人の訪れを 告げるものでした>