連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第50話「私、働きます」

三海社

茂「どげなっとるんだ?」

茂「あの。」

引っ越し業者「はい 何?」

茂「引っ越しですか?」

引っ越し業者「いや 会社 閉めてんだよ。 その本の山 下取り業者が 取りにくるから よけといて。」

作業員「はい。」

茂「会社を閉める? 深沢さんは どうしたんです?」

引っ越し業者「深沢さん? ああ ここの社長? 病院にいるよ。」

茂「まだ病院か。 悪いんですか?」

引っ越し業者「手術したって 聞いたけど。 会社 閉めるぐらいだから 相当 悪いんじゃない? こっちも 頼まれて 事務所の整理してるだけだから 詳しい事 聞かれても 分からんよ。」

回想

深沢「確かに。」

回想終了

茂「預けてあった原稿は どこに 行ったんでしょうか?」

引っ越し業者「え?」

茂「漫画の原稿です。 これぐらいの大きさで 厚みは これぐらいあって。」

引っ越し業者「知らんねえ。 ごみと一緒に捨てたんじゃない?」

茂「捨てた?!」

回想

深沢「この人の ここから あふれ出す物語が 紙とペンで描き出されて 人の心を動かすんです。」

深沢「今は 売れる売れないを言う時じゃないよ。 いいものを作る事に 全力を尽くす時だ。」

回想終了

<三海社の消滅。 それは そのまま 収入の道が 途絶える事を意味していました>

春田図書出版

(隣の印刷工場の音)

春田「(むせる声)」

茂「あっ!」

春田「うちでは 出せないね。」

茂「でも まだ描き始めたばかりですから これから どんどん 面白くなるんです。」

春田「あのね。 質問。 田舎の少年が 『河童』と仲良くなるような そんな話の漫画 一体 誰が読むの?」

茂「しかし これは 昔 紙芝居でやって 当たりを取った事があってですね。」

春田「ダメよ! ダメ 先生。 今どき ドンパチもなければ ギャグでも スポーツ物でもないような そんな漫画 どやったら 人気 出んの? 教えて下さい。 てんで ズレてんだよなあ。」

茂「分かりました。」

春田「長編を描こうなんて考えが どだい 無理があんの。 うちだってさ 商売になってるって いったら 短編の漫画集くらいな もんなんだよ。 ね! そういうんだったら 1本ぐらい 頼んでもいいけど。」

茂「やります! 短編でも何でも 描かせてもらいます。」

春田「でもなあ。」

茂「はい?」

春田「あの… 水木しげるって名前だと 取り次ぎが嫌がるんだよね。 ほら 先生の漫画 売れないでしょ? 名前 見ただけで 売れないって 思われちゃうじゃない? あと 何だっけ? 深沢さんとこで出した 怪奇物… キタ キタ…。」

茂「『鬼太郎』です。」

春田「『鬼太郎』 あれも 売れなかったでしょう? 気の毒だなあ 深沢さん。 会社も つぶれちゃうし。」

(隣の印刷工場の音)

春田「うるさいな 隣の印刷屋。 売れてる本でも刷ってのか? 本が売れたら 版元も 取り次ぎも 印刷屋も みんな もうかって 万々歳。 売れなきゃ みんなが損をする。 悲劇だね。」

茂「分かりました。」

春田「頼んでもいいよ 1本くらいなら。 短編ならね。」

スポンサーリンク







シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク