寝室
ユキエ「フミちゃん フミちゃん。」
布美枝「何?」
ユキエ「し~っ! ちょっと こっちに来て。」
2階
ユキエ「お願い。 あんた 朝まで ここで寝とって。」
布美枝「え?」
ユキエ「お父さんが見張りに く~けん 代わりに 布団に入っとってほしいの。」
布美枝「ユキ姉ちゃんは どげするの?」
ユキエ「安来の 輝子叔母ちゃんのとこに行く。」
布美枝「え~っ?! 家 出ていくの?」
ユキエ「し~っ! それぐらいせんと お父さん 考え直してくれんでしょう。」
布美枝「けど…。」
ユキエ「心配いらん。 朝になったら 電報 打つし お父さんが見合いを 断ってくれたら すぐに戻る。 ねっ お願い!」
布美枝「ダメだよ そげな事できん。」
ユキエ「あんたしか 頼めんのよ。」
布美枝「けど…。」
ユキエ「このままだったら わたし 家の中に閉じこもったまま 一生 お父さんと口をきかんよ。」
布美枝「え?」
ユキエ「そげな事になったら あんたも嫌でしょう。」
布美枝「嫌 そんなの困る。」
ユキエ「だけん ちょっとだけ 時間を置きたいんだわ。 分かるよね?」
布美枝「ほんとに すぐ戻ってくる?」
ユキエ「うん。」
布美枝「戻ってきたら 必ず お父さんと 仲直りしてくれる?」
ユキエ「もちろん。」
源兵衛「ユキエ 寝とるのか? いつまで そうしとるつもりだ。 起きとるんだろ。 ちょっこし 話をせんか? 口も ききたくないか…。 なら そのままでええけん。 わしの言う事を聞け。 この度の見合い わしは お前のためになる話だと 思っとるんだぞ。 学校を辞めさせた事は ちっと むちゃだったかもしれん。」
源兵衛「けどな わしは どげしても お前に 言っておきたい事がある。 このご時世 農家ならば 食べる心配をせんですむ。 それに お前なら どこに嫁いでも 家の切り盛りも していけるだろう。 わしは お前の事を見込んどんだが。 子供やちの中で お前が一番 わしの気性を受け継いどるけん。 お前のためには 今 嫁に出した方が…。 ああ もう 話がしにくい いい加減 布団から出え! いい加減にせえ!」
布美枝「あ!」
源兵衛「布美枝 お前 何しちょ~? ユキエは どげした? どげした?!」