布美枝「おいしいですね。」
茂「うん。」
布美枝「何年ぶりかな。 風邪なんかひくの。 私 丈夫に できてますけん めったに ひかんのですけどね。 結婚してからは 初めてかな。 ねえ お父ちゃん? …お父ちゃん?」
茂「なあ…。」
布美枝「はい。」
茂「映画の 看板描きにでもなるか。 やめるか! 漫画。 鼻紙一つ買えんのでは もう どうにもならんな…。」
布美枝「お父ちゃん…。 何 言っとるの?」
茂「『40過ぎてから売れ出した漫画家は おらん』と この前 浦木が言っとった。 あいつの言うとおりかもしれんな。 ここまでやって 芽が出んのでは この先も 日の当たる見込みは ないと 思った方がええ。」
茂「は~… この年で 仕事探すのも難しいが 看板描きの口ぐらいなら あるだろう。 早こと食って 寝ろ。 風邪ひいた時は 寝るのが 一番の薬だけんな。」
布美枝「はい…。」
<それは 布美枝が 初めて聞く 茂の弱気な言葉でした>
仕事場
茂「美男美女か… 俺らしくないなあ。」
居間
回想
茂「映画の 看板描きにでもなるか。 やめるか! 漫画。」
回想終了
布美枝「お父ちゃん 本気で言っとるんだろうか…。」
(物音)
仕事部屋
茂「ああ 起こしたか? 具合 どげだ?」
布美枝「もう 大丈夫です。」
茂「おい 鼻水 たれとるぞ。」
布美枝「えっ?」
茂「フフフ…。」
布美枝「もうっ。」
茂「どこまで出来ました?」
布美枝「虫眼鏡 持ってきましょうか?」
茂「ああ。」
布美枝「はい。 (くしゃみ)」
茂「あっ!」
布美枝「部品が…。」
茂「う 動くな! まずは 冷静に 被害状況の確認だ。 ひい ふう みい… 一つ 吹き飛ばされとるな。」