連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第73話「初めての里帰り」

居間

深沢「大事な原稿を紛失して 本当に申し訳なかった。 このとおりだ。」

茂「いや… もう 頭 上げて下さい。 病気だったんですから やむをえんですよ。」

回想

深沢「2人で 風を起こしましょうや。」

<茂が 原稿を届けに行った日 深沢は 血を吐いて倒れ そのまま 入院してしまったのです。 結核の再発でした。 三海社の倒産とともに 茂の描いた漫画の原稿も 失われてしまいました>

茂「…捨てた?!」

回想終了

深沢「遅くなりましたが… これ あの時の原稿料です。」

茂「もらっても ええんですか?」

深沢「もちろん。 奥さんにも ご苦労かけて…。」

布美枝「いえ そんな…。」

深沢「ご迷惑かけた分 これからの仕事で 返させてもらいますよ。」

茂「『これから』というと…?」

深沢「私 また 会社を作りましてね。」

茂「ほう。」

深沢「あれ… どこだっけ? 名刺 名刺。」

郁子「お預かりしてます。」

深沢「あ! ありがとう。 嵐星社といいます。」

茂「嵐星社…。」

深沢「この人は 秘書兼編集助手の加納郁子君。」

郁子「加納と申します。 ご挨拶が遅くなりました。                」

布美枝「あ… 名刺。」

茂「どうも 水木です。」

深沢「美人でしょう?」

茂「ええ。」

郁子「とんでもない。」

深沢「この人 前は丸の内の某商事会社で 重役秘書を やってたんだよ。」

布美枝「(小声で)重役秘書…。」

深沢「知り合いの見舞いで 療養所に来てたところに 私が声をかけてね。 ほら 美人だから つい。」

茂「ああ…。」

(笑い声)

深沢「『出版の世界に興味がある』って 言うもんで 『これは』と思って 引き抜いた訳。」

郁子「いいえ 私がお願いして 雇って頂いたんです。」

茂「ふ~ん… 商事会社から 貸本漫画に…。 あんた この人に騙されとるんじゃ ないでしょうな。」

深沢「ハハハハハ!」

布美枝「どうぞ。」

郁子「社長の話が とても面白かったんです。」

茂「ふ~ん。」

郁子「あ! 社長。」

深沢「ん?」

郁子「これ。」

深沢「おう。 私 これを始めました。」

布美枝「『忍術秘帖』?」

深沢「忍法漫画の短編集。 毎月出す 月刊の貸本漫画です。」

茂「はあ~ あんた こんなの いつの間に作っとったんですか?」

深沢「療養所にいる間にね。 加納君にも手伝ってもらって。」

布美枝「入院中にですか?」

深沢「じっと寝ているのが 性に合わんのですよ。 また水木さんと仕事したくて ウズウズしましてね。」

茂「これ 面白いですな。」

深沢「うん。 水木さん 忍法漫画 描いてもらえないかな? 毎月1本 短編で。」

茂「やります。 是非 描かせて下さい!」

深沢「そう じゃあ よろしく頼みます。 はあ しかしねえ…。 貸本漫画は もう いけない。 雑誌だね。 これからは 漫画も 雑誌の時代だよ。」

茂「しかし… 貸本から 雑誌に移れる描き手は めったに おらんのですよ。」

深沢「うん。 だからね 私 自分で作る事にした。」

茂「えっ?」

深沢「実は 今 漫画雑誌創刊の準備を 進めてるとこなんだ。」

茂「雑誌の創刊?」

深沢「大手からは いろんなのが出てるけど どれもこれも 子供相手のものばかりでしょう? 私は 貸本漫画の読者 『鬼太郎』や 『悪魔くん』を愛読する 青年達に向けて 雑誌を作るつもりなんだ。」

茂「青年向けの 漫画雑誌か… ああ それは 新しいですな。」

深沢「でしょう? 自前で雑誌を持ったら もっと もっと 面白い事がやれる。 秋には 創刊です。 水木さんには 是非 雑誌の柱になってもらいたい。 力になって下さい。」

茂「…はい!」

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