浦木「はあ~ 仕事の打ち合わせで 会えないとなると どうやって はるこさんを呼び出すか。 新たな作戦を 立てねばならんんなあ!」
(ドアベル)
マスター「いらっしゃい!」
浦木「こいつ この間のおやじだ。」
鎌田「手紙 書いたんだけど 届いた?」
政志「うん。」
鎌田「何で返事くれないの?」
政志「悪い。」
(2人の笑い声)
鎌田「待ってたんだよ。」
政志「うん。」
水木家
仕事部屋
(犬の鳴き声)
藤沢「ほう これは すごいね!」
戌井「戦記漫画が リアルに描ける訳だ。」
茂「ああ。」
居間
布美枝「ここは ええですけん。 向こうで 皆さんと一緒に。」
郁子「私 戦艦 見ても さっぱり 分かりませんから。」
布美枝「あれも 作ってみると 意外と面白いんですよ。」
郁子「あら? 奥さんも作るんですか? すごい。」
布美枝「いえ 私は ちょっと 手伝うだけですけん。 すごいのは 加納さんの方ですよ。」
郁子「私?」
布美枝「初めて会いました。 名刺を持っている女の人。」
郁子「そうですか?」
布美枝「丸の内の商事会社で重役さんの秘書を やっておられたんですよね。」
郁子「ええ。」
布美枝「いずみが聞いたら うらやましがるだろうな。 あ 妹です。 安来の田舎におって そげな仕事に 憧れとるんです。」
郁子「憧れるような 仕事じゃありませんよ。」
布美枝「え?」
郁子「私 名前のないの 嫌なんです。 名前がなかったんです。 ずっと。」
布美枝「名前がない?」
郁子「前に勤めていたの そこそこ 大きな会社でした。 きれいな秘書室もあって お給料も まあまあ。 でも 誰も名刺 持ってないんです。」
布美枝「え?」
郁子「何とか重役の秘書 それが 名前ですから。 仕事をしていても 自分の名前は ないのと一緒です。」
郁子「つまらないじゃないですか。 会社では 誰々の秘書。 結婚したら 何とかの 奥さんになって 何とかちゃんの お母さんになって。 そんなの つまらない。」
戌井「奥さん!」
布美枝「はい!」
戌井「奥さんも これ 一緒に 作ったんですって?」
布美枝「はい。」
深沢「へえ~ 大したもんですね。」
布美枝「いえ。 自分の名前か…。」