連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第80話「旅立ちの青い空」

居間

茂「さっきね 戌井さんが ええ事 言っとったんです。 『ゼタ』には 風が吹いとるようだって。」

深沢「透き間風かい?」

戌井「違いますよ! 新風を吹き込むって事です。」

深沢「いや 実は 透き間風も吹いてんだ。 何しろ わっせわっせと 急ごしらえで作ったもんだから あちこち 穴だらけでさ。」

郁子「読み物のページなんて 文字が ぎゅうぎゅう 詰まっている所と スカスカの所があって。」

戌井「あ ありました。」

深沢「戌井さん あんたも 久々に 1本 描かないかい?」

戌井「え?」

深沢「最近 描いてないんだって? 惜しいなあ。 私 買ってたんだがね あんたのスリラー漫画。」

戌井「せっかくですが 描く方は もう やめにしたんで。」

深沢「え?」

戌井「漫画家として 本物になれるのは 水木さんみたいに 脇目も振らず ただただ 描く事に 熱中できる人です。 僕は どうも 一歩 引いて 物事を見る癖があって。 自分の漫画も 客観的になってしまうというか。」

深沢「冷めた目で見てしまう?」

戌井「ええ。 残念ながら 自分のレベルも 見えてしまうんです。 漫画を見る目は いささか 自信がありまして。」

深沢「うん。」

戌井「しかし 日本一 小さい出版社としては やる事がたくさんあります。 大手出版社にはできない ざん新な漫画を 世に送り出す事が 僕の仕事ですから。」

深沢「そうか。 まあ お互い 頑張りましょう。 ねえ?」

戌井「はい。」

深沢「じゃあ。」

純喫茶・再会

浦木「今回は カット10点という事で。」

はるこ「分かりました。」

浦木「仕事の話は これくらいにして どうです? この後 新宿に繰り出して はやりの ジャズ喫茶にでも…。」

はるこ「もう 終わりにしましょう。」

浦木「え~っ!」

マスター「ああ!」

浦木「はるこさん なぜ いきなり 別れ話を?」

はるこ「カットを描くお仕事は もう 終わりにしたいんです。」

浦木「え? あ 仕事の方で…。 でも どうしてです? ギャラに ご不満でも?」

はるこ「これ 見ました?」

浦木「『月刊ゼニ』 金もうけの本か?」

はるこ「『ゼタ』です。」

浦木「『ゼタ』?」

はるこ「深沢さんが作った 漫画の雑誌なんです。」

浦木「漫画雑誌ねえ。」

はるこ「水木先生の作品も載ってます。」

浦木「え?」

はるこ「私も これに載せてもらえるような 漫画 早く描けるようにならないと。 今が正念場なんです。 余計な仕事してる場合じゃない。 漫画に集中しないと。 私 もう時間がないんです!」

スポンサーリンク







シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク