絹代「頭の30枚しか書いとらんくせに。」
一同「えっ…?」
布美枝「30枚 ですか…?」
茂「全部で何枚 書くつもりだ?」
修平「大作だけん 1,200枚ぐらいにはなるわな。」
茂「あ~ それは ちょっと…。」
絹代「おかしいでしょう。 たった30枚 読んで 本にしようだなんて。」
修平「向こうはプロだ。 出だし読めば 面白い小説かどうか 分か~だろう。」
絹代「けど 出版に かかるお金 こっちで半分持ってくれと 言ってきちょ~のよ。」
茂「う~む…。」
絹代「私は 『詐欺だねか』と 言っとるんだけど お父さんが 譲らんもんだけん。」
修平「目先の事ばかり言うな! ええか 金は 先行投資。 ベストセラーになれば 元が取れるどころか大もうけだぞ。」
絹代「ね しげさん あんた どげ思う?」
修平「漫画と小説は違うけん 茂に聞いても分からんわな。」
絹代「はっきり 聞かせてごすだわ! 老後の蓄えが かかっちょ~だけん。」
茂「う~ん どうかなあ…。」
絹代「しげさん!」
茂「う~む…。」
(ドアの開く音)
浦木「お~い ゲゲ おるか?」
布美枝「あら 浦木さん…。」
茂「おう。 あ ええわ 俺が行く うん。」
玄関
浦木「今日は 何の集まりだ?」
茂「え? いや そげな事は ええんだ。 それより お前 ええとこに来たな。 ほれ 上がれ!」
浦木「おう いつにない歓待ぶり。 お ゲゲ そうか! やっと俺の友情が 身に染みたか。 そういう事なら もうけ話に 乗せてやってもいいぞ。 ん? 手っ取り早く もうかる いい商売を考えたんだ。」
茂「うん…。」
浦木「文学かぶれの 素人に 小説を書かせて それ 本にするんだ。 もちろん 費用は向こう持ち。 イヒヒ アハッ!」
茂「いや お おい…。」
浦木「な~に 1冊も売れなくても かまわんのだ。 こっちは 上乗せした分の経費で バッチリ稼いで…。」
居間
絹代「やっぱり こげなカラクリに なっとったんだわ!」
浦木「な 何だ?」
茂「お前 悪いとこに…。」
浦木「え?」
絹代「あら? あんた 幼なじみの…。」
浦木「もしや境港の…。」
絹代「あ~ん!」
修平「茂の親です。」
浦木「あ ごぶさたしまして はい。」
絹代「思い出した! イタチと呼ばれとった子でしょう。」
浦木「どうも…。」
絹代「突っ立っとらんで座りなさい!」
浦木「え いや 私は もう これで…。」
絹代「ええけん!」
浦木「え? いや ゲゲ。」
絹代「今の インチキ商売のカラクリ もういっぺん 話してみ~だわ!」
浦木「え いや…。」
絹代「早ことっ!」
浦木「あ ちょっとちょっと…! おい…。」
絹代「あんた 素人おだてて 本 書かせて それで もうけようと たくらんどるの?」
浦木「いや あの これはですね その 本を出したいという人の 夢を かなえて差し上げる 慈善事業のようなものでして…。」
絹代「慈善事業で なけなしの老後の蓄え むしり取る気かね?!」
浦木「あ すいません…。」