茂「夢のような事 言うなよ。」
雄一「いやいやいや! 人生ってのはな 明日 何が起こるか分からんぞ。」
絹代「しげさん おるかね。」
布美枝「あら?」
茂 雄一「ん?」
布美枝「今 お母さんの声しませんでした?」
茂「イカルの声?」
雄一「縁起でもない事 言わんでよ。」
(茂と雄一の笑い声)
布美枝「あ…。」
茂「ああ…。」
雄一「いくら 何が起こるか分からんと いっても イカルが来るなんて…。」
布美枝「あっ お兄さん!」
雄一「え?」
絹代「雄一 あんた ここで 何しとるかね?」
雄一「えっ?!」
茂「2人そろって どげした?」
修平「話は後だ。 わしゃ ちょっこし厠へ…。」
絹代「だけん 『駅で借りたら どげか』って言ったのに。 ここは 駅から遠いわ。 あ~! くたびれた!」
茂「何か あったのか?」
絹代「知らせる葉書 出しといたけど… 私の方が 先に着いたかね?」
佐知子「キャーッ! へ… 変な男の人が…!」
修平「藍子は 何 作ってるんだ?」
藍子「お城。」
修平「う~ん。 日本のお城か? 西洋のお城か?」
藍子「ん?」
絹代「お父さん そげな事 まだ 藍子には分からんですよ。 (笑い声)」
佐知子「申し訳ありませんでした!」
絹代「舅の顔を忘れるなんて…。 親の家に さっぱり顔 出さんけん こげな事になるんだわ。 長男のくせして!」
雄一「…すまん。」
修平「まあ ええわ。 突然で 佐知子さんも 驚いたんだろう。」
絹代「大体 あんた達 なして 弟の家に 風呂もらいに来とるかね?」
雄一「き… 近所の銭湯が 今 建て替え中で…。」
絹代「近所がダメなら 隣の町まで行ったらええがね。」
雄一 佐知子「はい…。 こげな貧乏所帯に…。 風呂もらうなら 銭湯代ぐらい 置いていきんさいよ!」
2人「はい…。」
茂「ああ あの 急ぎの用事って 何だ?」
修平「おう それだがな。 わしの小説を出版しようという 話が 持ち上がっとるんだわ。」
茂「小説を?!」
修平「大学の友人に送って読ませたら 『これは傑作だ。 ベストセラー間違いなし。 早速 出版しよう』と言うんだわ。 そこで 急きょ 打ち合わせに 出てきたんだわ。」
雄一「そりゃすごいな…。」
修平「あ~ 文壇デビューのチャンス到来だが。 遅れてきた 大型新人だな。」
(一同の笑い声)
絹代「けど 素人の書いたもんを 本にしようなんて おかしな話でしょう?」
修平「何を言っちょ~だ。 『氷点』書いた 三浦綾子さんだって 素人の主婦だがね。」
絹代「また それを。 お父さん 『氷点』読んでから すっかり その気になっとって。」
雄一「ああ 懸賞小説で 1,000万 取った人な。」
茂「1,000万!」
雄一「何だ知らんのか? 今 新聞連載で大人気だぞ。」
茂「取っとらんからなあ 新聞…。」
絹代「北海道の主婦が 並みいるプロを 押しのけて1等取ったんだわ!」
茂「はあ!」
雄一「何か 映画にするちゅう話も 持ちあがっとるらしいぞ。」
修平「小説と映画は わしの長年の夢だけん 本が売れて映画化の話が来たら 『一石二鳥』だな。 ウハハハハハ!」