絹代「しげさん あんたも あんただわ! こげな ええ加減な人と つきあって まさか 一緒になって悪さしとるんじゃ ないでしょうねえ?!」
茂「いや 俺は な 何もしてない…。」
絹代「布美枝さん。 あんたもだわね。」
布美枝「え…?」
絹代「女房が しっかりせんけん こげな 怪しげな人が出入りするがね!」
布美枝「あ すいません…。」
修平「おい そげに ポンポン言わんでも ええやろう。」
そもそも お父さんが いけんのですよ! やっぱり おかしな話だないですか。 わざわざ 汽車賃かけて 出てきて!」
修平「いかん こっちに矛先が向いた…。」
絹代「もっ! 誰も彼も…。 しっかりして ごしなさい! はっ!」
<ちょうど その頃…>
雄玄社
<日本で一二を争う人気漫画雑誌を 出版する この会社では…>
少年ランド編集部
<1人の男が 茂の漫画を読んでいました>
豊川 悟「いいなあ! この 味のある絵。 ザラッとくるなあ! 水木しげるは…。」
梶谷「トヨさん 編集会議 始めるってさ。」
豊川「おう 今 行く。」
梶谷「うん ま~た 水木しげるかい? この間の会議で 却下されたじゃないの。」
豊川「もう3回 ボツったな。」
梶谷「貸本漫画家だろ? この絵 『少年ランド』には 合わないんじゃないかな?」
豊川「そこが いいんだ ザラッとくる。」
梶谷「え?」
豊川「違和感さ。 似たような漫画そろえたって 雑誌は 面白くならんよ。 売れるものは どこか ザラッとしてなきゃな。」
梶谷「ふ~ん。 しかし この『月刊ゼタ』ってのも 随分 雑な編集だね。 字組みも適当だし 印刷も汚いし。」
豊川「その規格外なところが 面白いのさ。 我が社じゃ こういうの出したくても 営業が 首を縦に振らんだろうな。 また提案してみるか 水木しげる。」
<茂の運命が 今 大きく動こうと している事など まだ 知る由もない 布美枝でした>