昭和四十年十一月
(小鳥の泣き声)
質屋
亀田「そろそろ 来る頃だと思った。 夏に買ってったテレビ あれ 質入れに来たんでしょ?」
茂「フフフ…。」
亀田「無理して いよいよ 食い詰めたんないかと 思って 心配してたんだよ。」
茂「ご主人!」
亀田「ん?」
茂「質ぐさ 請け出しに来ました。 全部 出して下さい!」
亀田「なに~?!」
<『少年ランド』の仕事で 原稿料も順調に入り 村井家は 長年の赤字から 初めて 抜け出す事が できたのです>
水木家
玄関前
居間
茂「はあ~ 懐かしいなあ この背広!」
布美枝「あら 随分 型崩れしとりますね。」
茂「ああ。」
回想
布美枝「早こと戻ってくる おまじないです。」
茂「え?」
布美枝「あなたも 何でも 預ける時は この おまじない 紙に書いて 貼っといたら ええですよ。」
回想終了
布美枝「おまじない 効いたのかな?」
(電話の呼び鈴)
茂「ええわ 俺が出る 仕事の電話だろ。 原稿の催促かな? 締め切りは まだのはずだが。 はい… ええ そうです。 え? ええ… はい…。 分かりました。 はい…。」
布美枝「仕事の電話ですか?」
茂「ああ 豊川さんからだ。」
布美枝「原稿の催促?」
茂「いや。」
布美枝「ほんなら 新しい仕事の話で?」
茂「そげな事じゃない。」
布美枝「まさか 打ち切り…。」
茂「俺に 賞をくれるそうだ。」
布美枝「賞?」
茂「雄玄社の漫画賞。」
布美枝「え?!」
茂「『テレビくん』が 今年の 雄玄社マンガ賞に 決まったそうだ。」
布美枝「『テレビくん』が 漫画の賞を?