水木家
仕事部屋
布美枝「やっぱり こげに型崩れしとったら もう着られんですね。」
茂「授賞式 どげするかなあ。」
布美枝「あら レコード ようけ持っとったんですね。」
茂「もう 随分 聞いとらんがなあ…。 こら! はあ~ お前 小さくなったなあ!」
布美枝「おっ 何?」
茂「え?」
布美枝「何ですか? 今のは。」
茂「あれはな…。」
玄関前
(犬のほえる声)
茂「貧乏神が 逃げてく…。」
茂「とうとう あいつとも 縁が切れたか…。」
布美枝「はい…。 見て お父ちゃん 星が きれい!」
茂「ああ。」
布美枝「あっ 流れ星…。 あ! 願い事するの忘れた。 また 流れんかなあ。」
(おならの音)
茂「ほうき星ならぬ 放屁星だ。」
布美枝「放屁って おなら? もうっ。」
茂「ああ 流れたぞ!」
布美枝「えっ! どこですか?」
茂「嘘だ。」
昭和四十年十二月
居間
布美枝「どげだったかいなあ。 くるっと回して 下から通して…。 で 形を整えて。」
茂「適当で ええが。」
布美枝「いや 今日は パリッとして 出かけてもらわんと。」
<今日は 雄玄社マンガ賞の授賞式です。 この日のために 茂は 10年ぶりで 背広を新調しました>
玄関前
茂「ほんなら 行ってくるわ。 何だ?」
布美枝「ええ男だなあと思って。」
茂「おう。 フフッ…。」
布美枝「行ってらっしゃい。」
茂「おう。」
居間
布美枝「よし! お祝いのごちそう作らんと。