もも「兄やんが…。」
醍醐「吉太郎さん まるで どこかへ 行ってしまわれるような事を おっしゃっていて…。 お別れしたあと 気になって捜し回ったの。 心当たりの所は 全部捜したわ。 でも 見つけられなくて…。 私の ただの思い過ごしなら いいんだけれど…。」
もも「おとうも おかあも 兄やんの事 随分心配してた。 おとう 言ってたの。 世の中が こうなった以上 憲兵は ひどい事になるって…。」
かよ「戦争に負けた事は 兄やんにとって 耐えられない事だったと思うよ。 今まで信じてきたものが すっかり崩れてしまったんだから。 兄やん すごく生真面目だから 変な事考えないといいけど…。」
<その後も 吉太郎の行方は 一向に分かりませんでした。>
(電話の呼び鈴)
廊下
朝市「あっ はなけ? 朝市だ!」
花子「朝市… どうしたの?」
朝市『大変じゃん。 吉平おじさんが倒れただ。』
花子「てっ…。」
朝市『心臓が弱ってて かなり危ねえ状態だって お医者さんが。』
玄関
直子「おじぃやん 大丈夫かな。」
美里「お母様。 おじい様に 早く元気になったって伝えて。」
花子「ええ。」
英治「お義兄さんにも知らせないと。 とにかく捜してみるよ。」
花子「お願いします。 それじゃあ 行ってきます。」
もも「直子。 いい子にしてるんだよ。」
直子「うん。」
かよ「行ってきます。」
汽車
(汽笛)
安東家
寝室
花子「ただいま! おとう! 大丈夫?」
吉平「はな! もも! かよ! よく帰ってきたじゃん。」
花子「おとう 起きてて平気なの?」
吉平「おお 平気も平気。 このとおり ピンピンしてらあ。 ハハッ ちょっこし クラッとなっただけじゃんけ。」
もも「な~んだ… よかった。 心配して飛んできたのに。」
リン「本当に人騒がせじゃんね。」
吉平「ああ すまん すまん。」
リン「ふんだけんど 東京からすっ飛んで 帰ってきてくれるなんて いい娘たちじゃんね~!」
吉平「ハハハハ ほりゃあ 俺の娘たちだからな。」
(笑い声)
朝市「ほれじゃ おらたちは これで。 おかあ 帰ろう。」
ふじ「お騒がせして悪かったじゃんね。」
リン「ううん。 婿殿の人騒がせは いつものこんじゃん! まあ 自分が年寄りだっちゅう事を 忘れんで 無理ょうしんこんずら。」
朝市「おじさん くれぐれも お大事に。」
吉平「おお 悪かったじゃんな 朝市。」
朝市「いえ。 (小声で)はな ちっと。」