廊下
畠山「はなさん よかったわね。 面接して下さるなんて 脈があるわよ その出版社。」
醍醐「はなさんなら きっと選んで頂けるわ。」
はな「ありがとう。」
談話室
はな「かよ! また スコット先生に クッキー ごちそうになりに来たの?」
スコット『召し上がれ』
かよ「サンキューです。 うめえ!」
茂木「安東さん。 お手紙ですよ。」
はな「あっ ありがとうございます。」
ふじ『はな あと2か月で卒業ですね。 はなの帰りを 楽しみに待っています』。
もも『この葉書 おかあは出さなかったけんど おらが代わりに送ります。 もも』。
かよ「おらも お姉やんに言おうか どうしっか ずっと迷ってただよ。」
はな「えっ?」
かよ「おかあ お姉やんが 帰ってくるもんだと思い込んでた。 ほれでも おらは 東京にいてもらいてえ。」
醍醐「そうよ! はなさんは 東京で夢を追いかけるべきよ。」
畠山「せっかく ここまで来たんだから 面接頑張って。」
はな「ありがとう。 頑張るわ。」
向学館
編集部
梶原「君は この会社に入ったら どんな本を作りたいの?」
はな「それは… 大人からも子どもからも 愛されて 読んだ人が 思いっきり 想像の翼を広げられるような そんな すてきな物語の本を 作りたいんです。」
「親御さんは あなたが働く事に賛成ですか?」
はな「…はい。」
「安東はなさん 卒業したら この編集部で働いて下さい。」
梶原「おめでとう。 君はついてたね。 これからは 女性の意見を 積極的に取り入れるべきだと 僕が提案して 編集部に 女性社員を入れる事になったんだ。 安東君なら ぴったりだとう思うよ。」
「親御さんも お喜びになるでしょう。」
「おうちは 山梨の甲府ですか。」
はな「ええ。」
「どんな所なの?」
はな「ブドウ畑と田んぼしかない所ですが うちに庭からは 富士山が見えます。」
梶原「へえ~ 富士山が。」
はな「盆地なので 冬は寒くて 空っ風が冷たくて 母の手は いつも あかぎれだらけです。 母は いつも 私たちの心配ばっかりしてます。 『風邪ひいてねえか。 腹すかしてねえか。 こぴっと やってるか』って。 母は 字の読み書きが できなかったのに 私の知らない間に 一生懸命 字を練習して 私に 初めて 葉書を書いてくれました。」
回想・ふじ『はなの帰りを 楽しみに待っています』。
梶原「安東君 どうかしましたか?」
はな「ごめんなさい。 嘘なんです。」
梶原「嘘?」
はな「両親が賛成してくれてるなんて 嘘なんです。 母は ずっと 私の帰りを待ってます。 この10年間 ずっと待っててくれたんです。 なのに おかあの気持ち 全然分かってなくて…。 ううん ほうじゃねえら。 本当は 心のどっかで 分かってたはずなのに 自分の都合のいいように 気付かんふりしてただけずら。 ごめんなさい! 私 やっぱり ここで働けません。 甲府に帰ります。」
「何だって?」
「君。」
はな「本当に申し訳ありません!」