安東家
居間
(戸が開く音)
もも「朝市さん! どうしたでえ?」
朝市「はな いるけ!?」
ふじ「はなは さっき 生徒さんと出かけたさ。」
朝市「てっ! 小山たえさんけ?」
ふじ「ああ ほうだけんど…。
朝市「どこ行ったでえ!?」
もも「お姉やんの大好きなとこって 言ってたけんど。」
朝市「あっ!」
教会
図書室
たえ「先生。 おらも ここが大好きだ。」
はな「先生の夢はね 子どもも大人も わくわくするような本を いつか 自分で作る事なの。」
たえ「へえ~! 先生 本作るだけ。 どんな物語でえ?」
はな「え~っと それは…。」
たえ「聞かしてくりょう。」
はな「てっ… 今け?」
たえ「うん。 先生が作ったお話 聞かしてくりょう。」
はな「そうだなあ…。 あ… ほれじゃあ。 『ある所に 大層太った 長い みみずがおりました。 「私のように立派な体を持ってる みみずは どこにもいやしない。 お庭から 道端から どこから どこまで探したって 私ほどの器量よしは 見つからないわ」。」
はな「こんな事を口にするほどの 威張りん坊でしたから お庭中のみみずは みんな この太ったみみずが嫌いでした』。」
たえ「みみずの名前は 何ちゅうでえ?」
はな「ああ… まだ考えてなかったけんど…。」
たえ「ほれじゃあ フト子さんは?」
はな「フト子け。 いいじゃんね! 『みみずのフト子さんは…』。」
(物音)
はな「てっ! 出た!」
たえ「キャ~!」
朝市「はな! 何が出たでえ!?」
はな「な~んだ 朝市け…。」
朝市「『何だ』じゃねえら!」
寅次「たえのおやじが 夜遅くに帰ったら 娘の姿が どこにも見当たらねえって。 校長も 近所の人らも 必死で捜してるだ。」
はな「ごめんなさい!」
寅次「今度は 校長の雷じゃ済まんら。 覚悟しろし。 ボコ。 おとうが待ってる。 行くだぞ。 おまんは 来んでいい。」
朝市「お願えします。」
たえ「はな先生 ありがとう。 この部屋の事も 先生の事も ずっと ずっと忘れねえ。」
はな「たえさん…。 ごきげんよう。 さようなら。」
たえ「ごきげんよう 先生…。」
<はなは 祈りました。 つらい時 苦しい時 想像の翼が たえさんを支えてくれるようにと。>
尋常小学校
教務室
緑川「あんだけ大ごとになって 謝って済む問題じゃねえら! しおらしく謝りゃ なんとかなると 思ってるるずら おなごは 困る! こぴっと 責任取れし!」
はな「本当に申し訳ありません…。」
本多「おまんの『申し訳ありません』は もう聞き飽きた。 はっきし言って おまんは 教師に向いちゃいんだ。 今日は もう うち帰って ゆっくり考えろし。」
緑川「ほうだ ほうだ! こんな落第教師いん方が 生徒たちも おとなしいくするら!」