安東家
居間
周造「はなの作る話は 面白えなあ…。 今日 何べんも何べんも 婿殿に読んでもらっただ。」
はな「てっ… おとうに?」
周造「ああ。 はなは ボコの頃 わしに言ったら。 『自分が周造じゃなく 周右衛門や周左衛門に なったと思ったら 景色が違うて見える』って。」
回想
はな「名前が変われば 見える景色も変わるだよ。 自分が花子だと思うと…。 ほ~ら 風の匂いまで違うじゃん!」
周造「フフフフフフ。」
回想終了
周造「はなに言われてっから わしは 時々 周左衛門になってみてるだよ。 ほうすると はなの言ったとおり 何か わくわくしてくるだ。 そうさな…。 はなの夢みる力が わしにも伝わるだな。」
周造「はな。 見っけた夢は 夢中になって追っかけろし。 この手で わしらの作れんものを 作ってくれっちゃ。 『たんぽぽの目』。 じぃやん 大好きじゃん。」
はな「おじぃやん…。」
翌朝
吉平「おじぃやん! 籠借ります! ほれと クワも。」
周造「おお 頼んだぞ。」
吉平「ふじ!」
はな「おとう おかあ 行ってこうし。」
朝市「おはようごいす。」
ふじ「おはよう!」
朝市「おはよう!」
はな「おはよう! おじぃやん。 おらも学校行ってきます!」
周造「おお 行ってこうし。」
朝市「行ってきます!」
(戸が閉まる音)
周造「ああ… 初雪か。 『まだまだと おもひすごしおるうちに はや 死のみちへ むかふものなり。 周座衛門』。」
<甲府に初雪が降った日 周造は 眠るように 息を引き取りました。>