連続テレビ小説「花子とアン」第67回「銀座のカフェーで会いましょう」【第12週】

かよ「ここのお客さんは みんな ほれを飲みに来るだよ。」

はな「ほれじゃあ それを。」

「シェークスピアは どうだ?」

「作品によるだろう。」

「『リア王』は?」

「あんな強欲なジジイの話して 誰が喜ぶんだよ!」

「ここは 『ハムレット』なんて どうだ? それこそ貴族の話じゃないか。」

<当時の 銀座の町には こういう しゃれたカフェーが 次々にオープンしておりました。 さて 初めて飲むコーヒーのお味は?」

はな「苦え!」

かよ「最初は みんな ほうだけんど 何べんも飲んでるうちに おいしくなるだよ。」

はな「ほうけ。」

田中「よし 分かった。 今度の公演は チェーホフをやらないか?」

荒井「『かもめ』か 『桜の園』は?」

龍一「いや 脚本は一から作る。 今 この時代を生きている 女性の叫びを芝居にするんだ。 例えば…。 君。 君は ここへ来る前 何をしていたの?」

かよ「えっと… 洋服店の縫い子や 製糸工場の女工をしてました。」

龍一「女工は つらかったろう。」

かよ「死ぬほど つらくて 逃げ出しました。」

龍一「それは 大変だったね。 ほら。 この子も 資本家に 踏みつけにされた犠牲者だ。 特権階級は ますます私腹を肥やし 労働者は 苦しむ一方だ。 だが ロシアでも革命が起きた。 俺たちは 演劇による革命を 起こそうじゃないか!」

「おう! やってやろう! そのとおり!」

はな「かよ。 大丈夫なの?」

かよ「あの学生さんたち いっつも ああいう話ばっかしてるだよ。 まるで おとうみてえずら。」

かよ宅

玄関

(猫の鳴き声)

かよ「ここが 今 おらが住んでるお城だ。」

居間

はな「かよ。 洋服店は どうして辞めたでえ?」

かよ「おら 前から カフェーで働きてえと思ってただ。 きれいな着物の女給さんたちに 憧れてただ。」

はな「そう…。」

かよ「おら 製糸工場逃げ出して おかあに迷惑かけたら。 ふんだから うちに仕送りしてえさ。 ふんだけど おらは お姉やんみたいに 学校行っちゃいん。 お金が うんと もらえる 職業婦人には なれん。 ほれでも 女給になれば お客さんから チップがもらえるだよ。 頑張って働けば働いた分 うんと稼げるじゃん。」

はな「ふんだけど お姉やん 心配だ。」

かよ「あのお店は いかがわしい事する カフェーじゃねえから安心して。 男のお客さんだけじゃんくて 女のお客さんだって多いし。」

あっ ほうだ。 醍醐さんも よく來るだよ。」

はな「醍醐さんも?」

かよ「本当に大丈夫だから。 おら お姉やんよりは しっかりしてると思ってるし。」

はな「ほうだね。」

かよ「お姉やんこそ 東京の男には 気を付けろし。」

はな「おとうにも 同じ事言われたさ。 ほれじゃあ 今日っから お世話になりやす。」

かよ「こっちこそ よろしくお願えしやす。」

(笑い声)

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