蓮子「まずは 乾杯しましょう。」
はな「ブドウ酒…。」
蓮子「覚えてる? あの事件。」
はな「忘れたくても忘れられたないわ! 私 あれから 自分に ブドウ酒禁止令を出したのよ。」
蓮子「はなちゃんには 苦い思い出かもしれないけど 私にとっては 大切な大切な思い出なの。」
はな「蓮様…。」
蓮子「はなちゃんを待ってる間に 次から次へと あのころの事が 頭に浮かんだの。 もう… 何もかも懐かしくって どうしても ブドウ酒で乾杯したくなったの。 10年ぶりの再会に。」
はな「そして…。」
2人「腹心の友に。 乾杯!」
はな「はあ… 何だか 本当に夢みたい。 私 この10年間 ずっと 毎日のように 想像の翼を広げて 蓮様と こうして再会する日を 夢みていたのよ。」
蓮子「まあ うれしい!」
はな「何かを楽しみに待つという事が その うれしい事の 半分にあたるのよ。」
蓮子「すてきな言葉ね。 はなちゃん ちっとも変わらないわ。」
はな「蓮様も。 すっかり すてきな奥様ね。」
蓮子「お金が いくらあっても 生きがいのない暮らしは むなしいわ。 はなちゃんと寄宿舎で過ごした あの半年間だけが 私にとっては 宝物のような時間なの。 どんな宝石の輝きにも負けないわ。」
はな「蓮様…。」
蓮子「今夜は あの輝きを取り戻すわ!」
はな「ええ!」
(笑い声)
かよ「いらっしゃいませ。」
英治「どうも。」
郁弥「こんばんは。 これ かよさんに。 この花 かよさんみたいでしょう?」
かよ「私 チップの方が うれしいんですけど。」
郁弥「よく似合います。」
かよ「てっ…。」
かよ「お姉やん。 村岡さんよ。」
はな「てっ。」
英治「どうも。」
蓮子「はなちゃん こちらは?」
はな「あっ。 聡文堂の取引先の村岡印刷さん。 あっ 女学校時代の腹心の友の 蓮子さんです。」
英治「ああ。 初めまして。」
蓮子「ごきげんよう。」
英治「逢い引きって こういう事だったんですね。」
はな「あれは 編集長たちが 勝手に言ってた事で 私は 逢い引きなんて ひと言も言ってませんんから!」
英治「えっ そうですか~?」
はな「そうですよ!」
英治「あれ? ブドウ酒には 嫌な思い出があったんじゃ?」
はな「今日は いいんです。」
英治「まあ 腹心の友との再会なら 思う存分 飲んで下さい。 何なら また おぶっていきますから。」
蓮子「はなちゃん 相変わらず 酒癖が悪いの?」
はな「もう 蓮様まで~…。」