英治「もしかして もう 酔っ払ってるんですか?」
はな「まだ 酔ってません! あっ もう 本当に お構いなく! あっ 私 郁弥さんに 本のお礼を言わなくちゃ。 蓮様 ちょっと失礼。」
英治「お邪魔しました。」
蓮子「あっ お待ちになって。 ちょっと お座りにならない?」
はな「郁弥さん。 先月は 貴重な原書を ありがとうございました。 夢中になって 一晩で読んじゃいました。 あれを翻訳して 新しい雑誌に 載せる事ができたらいいなと 思ってるんです。」
郁弥「あれは 兄です。 兄から あなたの気に入りそうな本を 贈りたいと言われたんです。」
はな「えっ?」
郁弥「あなたに 英語への 情熱を取り戻してほしいって。 今日も何冊か持ってきたんです。」
はな「あっ…。 あっ 読んでもいいですか?」
郁弥「どうぞ。」
蓮子「はなちゃん ちっとも変わってないわ。 村岡さんは はなちゃんの事が好きなのね。」
英治「花子さんを? そんな…。」
蓮子「はなちゃんは ずっと 花子って 呼ばれたがっていたんです。 あなたのような人が現れて よかったですね。」
英治「いえ… そんな事は 断じてありません。」
蓮子「どうして 『断じて』なんておっしゃるの?」
英治「だって 僕は…。」
かよ「てっ! お姉やん 駄目!」
はな「えっ?」
かよ「それ 3杯目だから 駄目!」
はな「えっ?」
蓮子「はなちゃん 3杯目は いけません。」
郁弥「3杯目は駄目だと お二人が言ってます。」
はな「みんな そこまで 必死に止める事ないじゃん。」
かよ「駄目ずらって! 駄目!」
蓮子「いけません! はなちゃん!」
はな「大げさ…。 大丈夫 大丈夫だから。」
郁弥「置きましょう。」
蓮子「はなちゃん!」
かよ「お姉やん!」
はな「蓮様 大丈夫です~。」
蓮子「大丈夫じゃありません!」
かよ宅
(猫の鳴き声)
居間
かよ「おはようございます。」
蓮子「かよさん おはよう。」
かよ「お姉やん! 蓮子さん 起きてるよ。」
はな「う~ん…。」
かよ「姉は 毎日遅くまで 英語の本を読んでるから いつも朝寝坊なんです。」
蓮子「この辞書 見覚えがあるわ。 修和女学校の頃 寄宿舎に送られてきたの。」
かよ「お姉やん ずっと大切にしてるんです。」
蓮子「どなたの贈り物?」
かよ「村岡さんです。」
蓮子「ゆうべの あの大きい方?」
かよ「はい。 大きいお兄さんの方から もらったそうです。」
蓮子「そうだったの。」
番頭「奥様~! 蓮子様~! 奥様~!」
はな「てっ! どうしたでえ!?」
蓮子「がっかりだわ。 もう 迎えが来てしまったようね。」
玄関前
はな「てっ…。」
かよ「人力車。」