梶原「一杯やろうと思って。 ハハハハハ。」
郁弥「もちろんです。」
梶原「英治君 奥さんの病院?」
郁弥「はあ…。」
平祐「実は 英治は離婚したんです。」
梶原「離婚?」
平祐「嫁の方から 別れてほしいと言ってきまして 英治は 最後まで納得しませんでしたが 嫁の意志が固く 先方の親とも話し合って 区切りをつけました。」
梶原「そうでしたか…。」
平祐「ところが あいつは 夫婦でなくなった今も 病室に通い続けています。」
郁弥「当然だよ。 義姉さんは 兄さんのためを思って 別れたんだから。」
平祐「郁弥。」
(ドアを開く音)
英治「ただいま。 あ… 梶原さん。」
梶原「やあ 待ってたんだよ。」
平祐「梶原さん。 今夜は ゆっくり 息子の愚痴でも 聞いてやって下さい。」
安東家
居間
吉平「『ロンドンの市中にいる。 これだけの事は分かっていたが それ以上は 何も分からずに ただ むやみに歩いていった。 行くにつれて 家は 次第に少なくなり 往来の人の数も減ってきた。 続く』。 第1話は ここまでじゃ。」
ふじ「はあ~ 面白かった。 はな 頑張ったじゃんね。」
吉平「早く 続きが読みてえなあ。」
ふじ「うん。」
はな「ほんな すぐには 翻訳できないよ。」
吉平「おお この挿絵も美しいな。」
ふじ「はあ~ いい絵だねえ。 見た事もない景色だに ず~っと見ていたくなるね。」
吉平「はなの訳した言葉に ぴったりじゃ。」
ふじ「うん。」
はな「ありがとう。」
村岡印刷
梶原「もう一杯 どうだ?」
英治「あっ 頂きます。」
郁弥「僕は もう結構。 2人とも強いな…。 ちょっと涼んできます。 はあ…。」
梶原「いろいろ大変だったみたいだな。」
英治「はい。」
梶原「俺も一度 結婚に失敗してる。 実は 結婚する前 愛していた女性がいたんだ。 だが 親の勧めるまま 別な人と一緒になった。 でも俺は 妻を幸せにしてやる事は できなかった。」
梶原「別れる時 彼女に言われた言葉が 今も耳に残っててね。 『結婚しても 私は ずっと寂しかった』。 そう言われたんだ。 俺と一緒にいると 一人でいる時より 孤独を感じたそうだ。」
英治「香澄も… そうだったのかもしれません。 僕は 2人の女性を 傷つけてしまいました。」
梶原「安東君は 甲府の実家に帰した。 ここんとこ ずっと うわの空だったからね。」
英治「申し訳ありません。」
梶原「どんな道を選ぶかは 君次第だ。 だが 後悔だけは するな。」