小原家
オハラ洋装店
昌子「やめときましょうよ そんな 桁のちゃう商売。 むちゃです。」
糸子「何も むちゃ ちゃうって。 縫製と販売は 北村社長が『やる』ちゅうてんや。 うちは 生地代だけ出したら あとは 売り上げの1割 返ってくんやで。」
松田「けど 先生 万が一 外したら…。」
糸子「外さへん! うちが デザインするんや。 しかも 生地は 一級品。 絶対 勝てるて。」
<自信を持って うちなりの商売 やったら ええんや>
糸子「せやさかい ここが 肝心やで。」
北村「うん。」
糸子「キュッ ふわっ キュッ ふわっ。」
北村「ほほ~。」
糸子「あの生地や。」
北村「うん。」
糸子「あの色や。 ここが キュッ ふわっ キュッ ふわっとしてな…。」
東京・小原宅
優子<お母ちゃん 聞いて下さい。 今日 アパートに帰ったら…>
源太「あ どうも こんにちは。 お邪魔してます。」
優子<男が 増えてたの!>
吉村「僕はね この卵の曲線に 宇宙を感じるんだよ。」
原口「そう! この卵には 全部 入ってますよ。」
優子「ほんっとに 冗談じゃないわよ。」
原口「自然の美しさ 全部 入ってます。」
優子「はい! さあ どうぞ~。 ね! 食べて下さいね~。 遠慮しないで いいですからね。」
「ありがとうございます。」
優子「いえいえ。」
原口「君達。 この小原直子の姉上は 入学以来 万年首席の優等生なんだぞ。」
優子「嫌だ 先生! 大した事ないですよ 私なんか。 生真面目なだけでね。」
源太「いや~ 万年首席なんて そうは取れねえべなあ。」
小沢「大したもんじゃなあ。」
源太「なあ!」
直子「いや ほんまに 真面目なだけやで。」
吉村「うん?」
小沢「えっ?」
直子「課題とかな アホみたいに キチキチ出しよんやし。 点取りが うまいだけで 別に 才能がある訳ちゃう。」
優子「はあ…?」
吉村「お… おねえさん やっぱり それ ディオールですか?」
優子「え?」
小沢「トラペーズラインでしょ? ね!」
優子「ああ… そうなの。 これね 自分で縫ったのよ。 ディオールなんて 買えやしないもの。」
吉村「人気ですよね サックドレス。」
源太「サンローランは やっぱり すごい。 次 どしたの 出してくるか ワクワクするよ。」
原口「うん!」
優子「ふ~ん…。 やっぱり みんな さすがに うちの生徒ね。」
原口「いやいや 優子君。 彼らはね うちの学校が初めて採った 男子学生だろう。」
優子「ええ。」
原口「確かに 見かけは まあ あまり パッとしないんだけど これが 驚くような粒ぞろいでね。」
優子「へえ~。」
原口「これから 必ず 彼らが 時代を切り開いていくよ。 見ててごらん。」
優子「はあ。」
源太「いや でも 先生。 直子も すごいです。」
原口「そう。 直子も すごい。」
優子「そうですか?」
原口「うん? まあ 優等生の君にすりゃ ちょっと頼りなく 見えるかもしれないけど…。」
優子「ええ。 私には ただの 出来の悪い妹にしか…。 だって うちの学生なのに こんなボロボロのセーラー服なんか着て 恥ずかしいったらねえ…。」
直子「うるさいんじゃ! うちは 姉ちゃんみたいに 能天気ちゃうねん!」
優子「はあ? 能天気?!」
直子「何が トラペーズラインや。 よう そんな他人がデザインした服着て ヘラヘラしてられんな?」
優子「はあ?」
直子「あんなあ この道 進むて 決めたら うちらは もう その瞬間から デザイナーなんや。 何 着るかは そのまま デザイナーとしての面構えなんや。 自分の面構えも決まってへんのに よその服 まねして 喜んでる場合 ちゃうんじゃ。 ほんな事も 分からへんけ?!」
優子「何 この~!」
直子「ああ 何や!」
優子「もう一回 言うてみ! この 出来損ないが! 何やと お前!」
直子「あ~ 何べんでも 言うちゃら! この半端者の 根性無し!」
優子「何やと?!」