勇の部屋
♬~(『ショパンのピアノ協奏曲』)
坂崎「僕はショパンが好きやねん。」
勇「僕は ベートーベンやな ショパンは ちょっと軟弱や。」
坂崎「そしたら ブラームスって 聴いた事ある?」
勇「ブラームス? 知らんわ。」
坂崎「今度 レコード 持ってこようか?」
勇「うん 持ってきて。 一緒に聴こうや。」
坂崎「うん。」
糸子「勇君!」
勇「あ…。」
糸子「こんにちは!」
勇「糸ちゃん。」
糸子「久しぶりやなあ!」
勇「久しぶり。」
糸子「はい これ食べり。」
勇「ありがとう。」
糸子「友達?」
勇「うん 坂崎君。」
坂崎「よろしく。」
糸子「坂崎君も これ食べり。」
坂崎「ありがとう。」
糸子「坂崎君 これ何か知ってるけ?」
坂崎「バウムクーヘンの事?」
糸子「おいしいなあ これ。」
リビング
清三郎「金は貸せん。 何でか分かるか?」
善作「は… これまでの 借金の事でしたら…。」
清三郎「あ…?」
(笑い声)
清三郎「せやから…。 せやから お前は 小者や言うんや。 わしは そんな小さい話 しとんやない。 ええか? 呉服屋ゆう商売が そもそも もうしまいなんや。 これから ますます洋服が 幅 利かせてくる。 生き残れんのは ほんまに一流の 呉服屋だけや。」
清三郎「お前とこみたいな小さい店 やったら まあ もっても せいぜい まあ あと5年や。 なるべく早いうちに 店 畳め。 いや うちのな姫路の工場に 人手が要るから なんぼでも世話したる。 ただし お前1人で行け。 千代や娘らは わしが面倒見たる。」
貞子「千代らを ここに住まわす いう事ですか?」
清三郎「すまんがな お前には もう任せられん。」
貞子「(ため息)そら 楽しなりそうやなあ。」
庭
清三郎「うお~ おう~!」
(騒ぐ声)
貞子「ほれ ほれ!」
(騒ぐ声)
列車
<帰りの電車の中で お父ちゃんは もう うそ寝もせんと ものも言いませんでした… ためしに>
糸子「お父ちゃん? うち 学校やめて パッチ屋で働きたい。」
<…て言うてみたら>
善作「アホか。」
<寝ぼけたみたいな顔で言われて 何でか知らん うちは それ以上 パッチ屋の話が でけへんようになりました>
だんじり小屋
善作「いよいよやなあ 今年も。」
泰蔵「はい。」
善作「お前 大屋根に乗って何年目や。」
泰蔵「5年目ですわ。」
善作「大したもんやなあ。」
泰蔵「いや…。」
善作「いや 大したもんやで。 わしかて ガキの時分 屋根に 乗りたい思ちゃったけどなあ。」
泰蔵「え…。」
善作「そらそや! 岸和田んガキで 大工方に憧れん 奴は いてへんよ。『どないしても 屋根に乗る』思ちゃったけどなあ。 ま… わしの場合 根性が足らんかったのう。 ハハハハ…。」