千代「あんな ぜいたくな着物 あんただけに買われへん。 清子かて 光子かて お下がりで我慢してやんのに。」
静子「ええなあ 糸子姉ちゃんは。 糸子姉ちゃんばっかし 新しい着物 着れるし 好きな事 さしてもらえるんやさかい。『学校 やめたい』ちゅうたら やめさしてもうて『働きたい』ちゅうたら 働かしてもうて。」
千代「そない 羨ましいんやったら あんたも 姉ちゃん 見習うたら よろし。」
静子「えっ?」
千代「こないなとこで お母ちゃんに グジュグジュ言わんと 自分で お父ちゃんに『着物 買うて下さい』て 頭 下げといで。」
静子「そんな事 うち ようせん。」
千代「好きな事するちゅうんはな 見てるほど 楽と ちゃうんやで。 女は余計や。 大変なんや。 姉ちゃんは偉いやん。 やりたい事あったら 全部 自分で どないかしよる。 どんだけ しんどうても 音ぇ上げへん。 ええなあ思うんやったら 何ぼでも まねしい。 けど まねでけんと 文句だけ言うんは あきません! さあ そろそろ おとうちゃん 帰ってくるよって 降りとこか。」
静子「お母ちゃん 今日の晩御飯 何?」
子供部屋
<偉いやて… 姉ちゃんは偉いやて>
居間
千代「はれ! 起きてきた。」
糸子「あ~ おなか すいた。」
千代「御飯 食べるか?」
糸子「うん!」
ハル「ちょっと あんた これ着ぃ!」
糸子「いや いや もう ええて。」
ハル「『いや』や ないねん。 ここ。」
糸子「いや もう ええて。」
ハル「これも しぃて! ちゃんと着ぃ。 ちゃんと 手ぇ通して。」
千代「店 明日 もう一日 休ましてもらうか? お母ちゃん 言いに行ったるさかい。」
糸子「ううん。 明日は もう行ける。 いただきます!」
善作「勉強やで。 勉強しに行くと思え。」
糸子「そやな。」
善作「うん?」
糸子「ほんまやな お父ちゃん 勉強やと 思て行ったら ええんやな。」
善作「何 初めて聞いたような顔して 言うとんねん。」
糸子「そやけど ほんまに 初めて 聞いたような気ぃするわ。」
善作「はあ~? 何 言ってんだ? お前は!」
糸子「そや 勉強やな!」