小原家
居間
昌子「先生? 先生!」
糸子「え?」
昌子「うどん 全部 落ちてますよ。」
糸子「あ…。」
りん「これ 使うて下さい。 どうしたんですか? 先生。」
糸子「お代わり もうてくるわ。 はい 直子。 お父ちゃんに おぶ 飲ましてもらい。」
(戸をたたく音)
勝「誰か 来たで。」
(戸をたたく音)
玄関
糸子「おばちゃん… どないした?」
玉枝「勘助に 何した?」
糸子「え?」
玉枝「糸ちゃん。 あんた 勘助に 何してくれたんや?」
糸子「勘助が どないかしたんか?」
玉枝「さっき 2階から 飛び降りようとしよったわ。」
(雷鳴)
玉枝「やめてくれ!」
糸子「え?」
玉枝「糸ちゃん。 あんた 金輪際 勘助に会わんといてんか?!」
糸子「何で…?」
玉枝「あんなあ 糸ちゃん。 世の中っちゅうのはな みんなが あんたみたいに 強い訳 ちゃうんや。 あんたみたいに 勝ってばっかし おる訳 ちゃうんや。 みんな もっと弱いんや。 もっと負けてんや。 うまい事いかんと 悲しいて 自分が みじめなんも 分かってる。 そやけど 生きていかな いかんさかい どないかこないか やっとんねん。 あんたに そんな気持ち 分かるか? 商売も うまい事いって 家族も みんな元気で 結構なこっちゃな!」
玉枝「あんたにはな… なあんも 分かれへえわ! どないか 働きに出れるよになったのに…。 ここまで うちらが どんだけ 神経すり減らしてきたか あんたには 想像もつけへんやろ?! 今の勘助に あんたのずぶとさは 毒や! 頼むさかい… もう うちには 近づかんといて。」
(雷鳴)