糸子「何で?『供出せえ』言われたん?」
八重子「まだ言われてへんけど いずれは せな あかんやろなあ。」
糸子「せやけど 商売道具なんやし 大目に見てもらいよ。 うちかて ミシンやらアイロンやら 鉄のもん なんぼでも あるけど 死んでも 出す気ないで。」
八重子「同じ商売道具でも ミシンとパーマ機は ちょっと ちゃうよ。 パーマはなあ それでのうても 風当り 強いさかい。 女の洋髪なんか 今 日本で一番無駄で アホなもんやと思われてる。」
糸子「いや そんな事。」
八重子「何で 買うてしもたんやろ? あと もうちょっとだけ待って 時代の流れ 見といたよかった。 高い月賦だけが 残ってしもた…。 そやけどな 糸ちゃん 勘助ちゃんな。」
糸子「え?」
八重子「昨日から また お菓子屋さんに 働きに行ってんやで。」
糸子「えっ ほんま?」
八重子「『家で じいっと 籠もっちゃあたかて 余計に 気ぃ ふせぐやろ』ちゅうて 泰蔵さんが勧めたんやし。」
糸子「ほんまけ?! ああ よかった! そうか。」
お菓子屋
<勘助は やっぱし ボ~ッとしちゃあたけど そいいでも 前と おんなしように 菓子屋の店先に 座ってる。 そんだけで ずっとずっと 元気になったように うちには見えました。 それが あんまし うれしかったもんで もっと元気に さしたろて 思てもて>
勘助「ほな また 明日。」
「うん また明日。」
糸子「勘助!」
<ちょっと 先を 急ぎ過ぎたんやと思います>
糸子「寒いし コーヒーでも 飲みに 行かへんか? おごったんで。」
勘助「いや… ええわ。」
糸子「あ いやいや そやけど 待っちゃったんやで あんたと コーヒー 飲みたあて。 な?」
喫茶店・太鼓
糸子「去年の夏か 平吉も 出征しよってな。」
勘助「ふ~ん。」
見送りにも行ったけど あんたん時ほど派手やなかったで。 やっぱし あんたの頃が 一番 派手やったわ。 うん。」
(ドアの開く音)
糸子「あ 来た!」
サエ「ああ 久しぶりやなあ 糸ちゃん!」
糸子「勘助 覚えてるか?」
サエ「覚えてる 覚えてる! なあ 久しぶりやなあ! 戦地 行っちゃってんて? よう無事で 帰ってきたなあ。」
糸子「あんた 今 軍需工場で働いてんやて?」
サエ「そうや。 ダンスホールなんか とっくに 閉鎖されしもたよって 踊り子みんな 今 工場勤めやで。 はあ~ しんど。 ちょっと すんません! コーヒー 頂戴。」
糸子「勘助?」
サエ「どないしたん?」
勘助「うっ…。」
糸子「勘助? 勘助 大丈夫か?!」
サエ「え?」
糸子「ちょっと 子供 見ちゃって。 勘助~!」
道中
(勘助の泣き声)