糸子「そら…。 だんじりちゅうんはな 女は 曳いたらあかんもんやさかい。」
直子「誰が あかんて言うの?」
糸子「さあ…。」
糸子「まあ… 神様?」
直子「直ちゃんが 神様やったら だ~れも だんじり 曳いてくれへん方が 嫌や。」
糸子「ふん。」
直子「来年は 直ちゃんが曳くで!」
糸子「はあ…。」
直子「男が いてへんでも 直ちゃんが 曳いちゃら。 絶対 絶対 曳いちゃる。」
糸子「ハハハハ… フフフフッ。」
オハラ洋装店
(ミシンの音)
八重子「あんた。 お母ちゃん 毎日 荷物ある訳ちゃうんやし 迎えになんか 来んでええよ。」
太郎「帰り道やさかい。」
<太郎は ええ子に育ってました。 多分 あれから 勘助も おばちゃんも そない ええ事には なってへんのやろと思います。 八重子さんは うちらに 見せへんだけで さぞかし しんどい思いを 抱えてるんやと思います>
玄関前
糸子「太郎 あんたも 来年は だんじり 曳いてや。」
太郎「はあ…。」
糸子「なあ! あんたみたいな子は 戦地やら行かんと 岸和田 残って だんじり 曳いてくれな おばちゃんら ほんま かなんねやで?」
八重子「よう言うちゃって 糸ちゃん ほんまに。 このごろ この子『予科練 行きたい』やら けったいな事ばっかり 言うんやさかい。 ま ほな 明日 糸ちゃん!」
糸子「ほなな!」
八重子「ほな ほな。」
糸子「ほなな!」
八重子「ええて もう ええて! お母ちゃん これ なかったら 歩きにくいよって。」
台所
千代「あっつい あっつい! ああ よいしょ あ~。 ああ 八重子さん! あ~。 八重子さん?」
八重子「あ… すんません。」
千代「ああ いや…。」