糸子「ああ…。」
清三郎「千代!」
糸子「え? おじいちゃん 今日は お母ちゃんは 来てへんで。」
清三郎「千代 おいで。」
貞子「あんたを 千代と思とんよ。」
正一「いいから 行ったり。『は~い』言うて。」
糸子「は~い。 何? おじい… お父様。」
清三郎「千代。」
糸子「ん?」
清三郎「千代…。 善作君には かわいそうな事 したなあ。」
糸子「へ?」
清三郎「このわしもな もとは言うたら 貧しい貧しい 一介の丁稚やった。 それを ここの松坂の父が 見込んでくれてな 貞子の婿にまで 引き上げてくれた。」
糸子「はあ…。」
清三郎「そやのに わしには そうゆう 懐ゆうもんが なかったんや。 甲斐性がない ゆうだけで あんな気のええ男を 毛嫌いして つろう 当たってしもた…。」
糸子「かめへんて そんなん…。 お父…。 善作さんは そんなん 何も 気にしてへんて。」
清三郎「なあ 千代…。 今日 うち 帰ったらな 仏壇に 手ぇ 合して よう拝んどいてくれ。 わしが… 松坂の父が『許してくれ』言うとったって。 なあ 千代…。」
糸子「分かった。 言うとくわな。」
貞子「ところどころだけは 合うてるな。」
玄関
勇「元気でな。」
正一「千代に よろしく 言うといてな。 おばあちゃんと 静子らにもな。」
糸子「うん。」
正一「また おいで。 ごんた娘さんら。 え? こら!」
直子「いや~。」
正一「ハハハハハ…。」
<この人らにも また もっかい 会う事が でけるやろか>
糸子「ほなな。」
貞子「糸子…。 あんた 生き延びや。 必ず必ず また 顔 見せてな。」
糸子「うん。 おばあちゃんも 元気にしててな。」
貞子「うん。」
<ちょうど そのころ B29が 初めて 大阪の市街地に 焼夷弾を 落としていったちゅう事を うちは 翌朝の新聞で知りました>
小原家
居間
糸子「『特徴は 焼夷弾を主体とした事で 敵は 今後も 重要工場施設のみでなく 市街地の盲爆を行う事も 考慮する必要がある』。」
光子「焼夷弾って どんなん?」
昌子「燃やすやつや。 バラバラ落ちてきて 家やら建物やら どんどん 火ぃ付けるんや。」
<敵は 思たより えげつない事しよる ちゅう事に やっと みんなが気付いて…>