オハラ洋装店
(ミシンの音)
優子「なあ お母ちゃん 直子に やられたとこ 痛い。 見て!」
糸子「知らん。」
優子「見て!」
(ミシンの音)
木岡履物店
木岡「下駄や。 下駄!」
「ゲタ?」
木岡「せや! 下駄。 日本のな 履物や。 そう 履物 足に こう… 靴 そう!」
<進駐軍ちゅうんは いざ 来てみたら そない言うほど 怖いもんや のうて…>
木岡「侍? おう 侍や!」
「サムライ?」
木岡「侍が こう履くんや。」
闇市
店主「泥棒~!」
木之元「これ 牛け? 牛の肉? お~! おおきに! サンキュー! 糸ちゃん 糸ちゃん。 これ 牛やて。」
糸子「牛け。」
木之元「ほんでな これは コーヒーの急須。」
<アメリカの珍しいもんを ようさん持ち込んでくれるし 日本のもんを よう買うてくれるしで 結構 ありがたい人らでした>
「これで… どや?」
糸子「いやいや そら むちゃや。」
「えっ?」
糸子「新品やで?!」
「新品? ほんまかいな?」
<闇市では 物々交換での買い物もできます>
「こんだけ。」
糸子「話にならんわ!」
「ああ ちょっと ちょっと!」
<世の中には まだまだ 物が足りてへんよって 軍需品の残りで こさえたようなもんでも 結構 ええ値がつきます。>
小原家
オハラ洋装店
<今は この一枚が そのまんま お金っちゅう訳です>
♬~(ラジオ)
3人「ただいま~!」
糸子「お帰り! ご苦労さん!」
<うちは 他の工場からも どんどん 余りの生地を 払い下げてもうて 片っ端から 着るもんに 仕上ていきました>
サエ「こんにちは。 糸ちゃん!」
糸子「サエ… あ…。 あんた 無事やったんか?!」
サエ「無事や 無事や! よかったなあ 糸ちゃんも 元気で。 店かて そのまんまやんか!」
<ほいでも…>
(泣き声)
<サエも 弟と親戚のおにいちゃん いろんな人を亡くしてました>
糸子「大変やったなあ…。」
サエ「うん…。 けど 糸ちゃんかて…。」
糸子「まあ… お互いさんやな。」
サエ「けど… 糸ちゃんの事やさかい 早速 ジャンジャカ 洋服こさえてるか思た。」
糸子「ああ… そんなん まだまだや。」
サエ「え~ 何でやのん?」
糸子「そら… 世間は まだ おしゃれどころやないで。 みんな 今日一日の御飯かて 食べられるかどうかやのに。」
サエ「何 言うてんの?! そやからこそやん!」
糸子「そうなんか?」
サエ「当たり前やんか?! うちかて 今日 ここに しゃれたスカートでも あったら 3日くらい 御飯抜きでも 買うちゃろ思て 来たんやで?!」
糸子「ええ?! 何で?」
サエ「何でて…。 は~ 糸ちゃん。 あんたは ええ商売人かもしれんけど やっぱし 何ちゅうか 女心に疎いとこ あんなあ。」
糸子「どういう事や?」
サエ「町 よう見てみ? 増えてるやろ?」
糸子「何がや?」
サエ「男や。」
糸子「男?!」
サエ「やっと 戦争 終わって 若い男が 戻ってきだしてる。 おまけに アメリカ兵は その辺 ウロチョロしてるしな。 もう うちなんか どんだけ おしゃれの血ぃ 騒いでるか!」