糸子「はあ…。」
サエ「こないだ 五軒町かて だんじり 曳いちゃあったやろ?」
糸子「うん 曳いちゃあった。」
サエ「うっとこの町も 結局 警察のおとがめ 聞かんと 男の人ら 曳いちゃあったわ。 あれと一緒や! こんだけ 何もかんも取られて しんどい目ぇ見たあげくに 戦争 負けてしもた。 ポケ~ッと しちゃあったら 悲しいんと悔しいんとで 死んでまいそうや。 男が だんじり 曳かんならんように 女は おしゃれせんならんねん。」
<そやかて うちも 大概 探し歩いてるけど 洋服に でけそうな生地なんか まだ どっこにも ありません>
糸子「ああ あ~!」
静子「どないしたん? 姉ちゃん。」
糸子「はあ…。」
「こんにちは。」
糸子「はい?」
「はあ… まだ 洋服 置いてへんの?」
糸子「ああ… いや もうちょっとしたら すぐ置くんやけどな。」
「はあ そうか。 ほな また来るわ。」
糸子「あ 堪忍な! すぐ置くよって! ほんま すぐやさかい また来てな~! はああ~! もう ええ! とりあえず こんで こさえちゃる!」
<ズボン下の生地で こさえた ブラウスと 軍服生地のスカート。 こんなん まだまだ『おしゃれ』ちゅえる ようなもんとは ちゃうけど…>
糸子「へ?!」
「売りもん? これ 売りもん?!」
糸子「うん…。」
「頂戴! これ 頂戴!」
「うちも! うちも 頂戴!」
糸子「ちょ… ちょっと待って。」
<ほんまや。 サエの言うたとおりでした>
ヤス子「小原さん。 小原さん!」
糸子「はい。」
ヤス子「注文したよって 頼んどくわな。 はよ作ってや。」
糸子「おおきに! 頑張ります。」
<長谷さんとこは 息子が3人とも 出征したちゅうてたな…。 あの息子ら どないなったんやろ… ああ… 縫いたい! ほんまに ええ洋服を縫うて はよ この人らに着せちゃりたい>